1996年7月6日に日本では劇場公開された『ツイスター』。その翌週の7月13日には『ミッション∶インポッシブル』『ガメラ2 レギオン襲来』と、其々に特殊視覚効果を駆使した作品が公開され、大変に賑やかな夏となりました。(『ミッション∶インポッシブル』は一部劇場で7月6日に先行上映がありました)


1993年公開の『ジュラシック・パーク』はコンピューター・グラフィックスによる特殊視覚効果映像の大きな進歩を示した作品となり、以降様々なジャンルの作品でコンピューター・グラフィックス=CGが駆使される様になり、映像表現の幅が広がりました。


『ツイスター』に於いても、そのCGによる映像表現は際立っており、予告篇にも使用された竜巻によって牛が空中を舞う場面(“モウ烈” “モゥ〜嫌”なる駄洒落を言った人が日本で何人いた事か……)は強烈な印象を与えました。

1939年のジュディ・ガーランド主演『オズの魔法使』で描かれる竜巻は、巻いたカーテンをレールで動かすという方法だった事を思えば、映像表現の発達には驚愕するものがありました。(『ツイスター』『ツイスターズ』では劇中のコードネームで『オズの魔法使』のキャラクターの名前が使用されています)


『ツイスター』はディザスター・ムービーと呼ばれるジャンルの作品ですが、このジャンルは以前はパニック映画と呼称されていました。パニック映画が隆盛を極めたのは1970年代。アメリカン・ニューシネマの台頭で勢いを失っていたハリウッドが、往年の大作の復活を意図して製作したグランド・ホテル形式のパニック映画が『大空港』(1970年)でした。

この『大空港』を雛形として製作されたのが『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)であり、この作品の大ヒットでハリウッドではパニック映画の製作が盛んになり、『エアポート'75』(1974年)『大地震』(1974年)『タワーリング・インフェルノ』(1975年)等の作品が続々と公開され、『世界崩壊の序曲』(1980年)辺りでブームは一旦終焉を向えました。

(因みに『エアポート'75』と『大地震』は日本では共に1974年12月14日公開、共にチャールトン・ヘストン主演、共にCIC配給作品であった事から、“1975年正月映画はチャールトン・ヘストンで上を下への大騒ぎ”と宣伝されていました)


実は此等のパニック映画と『ツイスター』とでは決定的に異なる点が一箇所ありました。パニック映画で描かれていたのは“災害から逃れ生き様とする者”だったのですが、『ツイスター』では竜巻を観測するトルネード・チェイサーが主人公である為に“自ら災害の中に飛び込む者”が描かれていました。『タワーリング・インフェルノ』の消防隊長オハラハン(演:スティーブ・マックイーン)は任務上“自ら災害に飛び込む者”でしたが、少なくとも彼は『ツイスター』の主人公の様に「ウィリアム・テル序曲」をBGMにする人ではありませんでした。


『ツイスター』の監督はヤン・デ・ボン。元々撮影監督で、1989年『ブラック・レイン』1990年『レッド・オクトーバーを追え!』等のキャメラを担当。(当時、日本ではジャン・デ・ボンと表記されていました)1994年『スピード』で監督デビューを果たしています。

1995年にハリウッドのトライスター映画製作の『ゴジラ GODZILLA』の監督に起用されるも、意見の相違から降板。その後に監督を務めた作品が『ツイスター』でした。故に当時の日本の映画ファンの中には、『ツイスター』の劇中で街を破壊する竜巻にゴジラを重ねて見ていた者が数多くいました。


1996年には日本には存在しなかった「気象庁・竜巻注意報」が発令される様になったのが2008年3月。そして2024年『ツイスター』の続篇……と言うかリブートに近い『ツイスターズ』が公開されました。

この間、POV表現を取り入れた『イントゥ・ザ・ストーム』、サメを巻き込んだ『シャークネード』等、正統派の作品からおバカ系の作品まで様々なバリエーションの映画が製作されましたが、満を持しての後継作品の登場です。


劇中の見せ場として、竜巻から逃れる人々が『フランケンシュタイン』を上映中の映画館に避難するも、映画館も倒壊寸前となり、スクリーンが破壊され飛ばされてゆき、変わって竜巻の恐怖が現実のものとして眼前に迫る……それをスクリーンで見ている我々というメタフィクション的演出があります。


また前作では劇中のトルネード・チェイサーは上述の様に「ウィリアム・テル序曲」をBGMにしていましたが、本作のトルネード・チェイサーは「ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ」をBGMにしています。


一方で……竜巻は自然現象であってキャラクターではないので、基本的にはストーリーに大きな変化がある訳ではなく、竜巻の観測を試みるトルネード・チェイサーが主人公という点は前作と同様です。

しかし、『ツイスターズ』最大の特色は、その主人公が竜巻を科学的手段で●●させる描写が最大の見せ場となっている事です。


「科学は俺にとって屈伏させるべき敵なのだ」というのは『宇宙戦艦ヤマト』の真田の言葉ですが、『ツイスターズ』の主人公ケイト(演:デイジー・エドガー=ジョーンズ)にとって竜巻は「観測対象」から「屈伏させるべき敵」になっていく……その様が描写されます。

ヤン・デ・ボンが『ゴジラ GODZILLA』の無念を『ツイスター』で晴らした……等と言われる事がありましたが、どちらかと言えば『ツイスターズ』こそが『ゴジラ GODZILLA』の様な映画になっている気がします。


気になるのは……例えば、一色登希彦によってコミカライズされた『日本沈没』(原作:小松左京)の中で「気象操作は間違いなく“ツケ”が生じる」と語られていましたが、現実の話として1977年の「環境制御会議」に於いて「気象兵器を制限する環境改変禁止条約=ENMOD」がジュネーヴで採択されています。一応、平和目的なら条約には抵触はしないのですが、果たして劇中のケイトの行為に“ツケ”は生じないのか?……シリーズ3作目が製作されるのであれば、案外この条約を絡めたストーリーになる……かもしれません。



『ツイスター』

TWISTER

1996年 アメリカ

【出演】

ヘレン・ハント

ビル・パクストン

ジェイミー・ガーツ

ケイリー・エルウェス

ロイス・スミス

フィリップ・シーモア・ホフマン

アラン・ラック

ショーン・ウォーレン

スコット・トマソン

トッド・フィールド

【監督】

ヤン・デ・ボン


1996年公開時の新聞広告(名古屋市)

『ツイスターズ』

TWISTERS

2024年 アメリカ

【出演】

デイジー・エドガー=ジョーンズ

グレン・パウエル

アンソニー・ラモス

ブランドン・ペレア

モーラ・ティアニー

サッシャ・レイン

ハリー・ハデン=ペイトン

デヴィッド・コレンスウェット

トゥンデ・アデビンペ

ケイティ・オブライエン

【監督】

リー・アイザック・チョン


コレクター泣かせの一周りサイズの大きなパンフレット


『オズの魔法使い』(『オズの魔法使』改題)
1985年リバイバル上映(MGMミュージカル映画特集)時の新聞広告(名古屋市)