“キング・オブ・ポップ”の異名を誇ったマイケル・ジャクソン。音楽の世界での華々しい活動は今更説明するまでもありません。その一方で、映画出演はと言うと……
『STARS ウィ・アー・ザ・ワールド』『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』の様なドキュメンタリー作品、『メン・イン・ブラック2』『マイケル・ジャクソン IN ネバーランディングストーリー』の様なカメオ出演の作品、『ベン』『フリー・ウィリー』の様に劇中歌のみを担当した作品を別格にすると、決して多くはありません。劇場長篇映画としては『さよならチャーリー』『ウィズ』『ムーンウォーカー』の3本があるだけです。
しかし「マイケル・ジャクソンが◯◯◯という映画に出演するらしい……」という噂は1980~1990年代には時折流れていました。そんな幻の出演となった噂の作品を記しておきます。
『ピーター・パン』
ジェームス・マシュー・バリーによる戯曲及び小説が原作。1953年製作のディズニーのアニメーション映画が有名ですが、1985年に『カラーパープル』に続くスティーブン・スピルバーグ監督の次回作候補として『タリスマン』(スティーブン・キング&ピーター・ストラウブ原作の小説の映画化)と共に『ピーター・パン』が挙がっていました。
スティーブン・スピルバーグは『ピーター・パン』の大ファンで、かねてより映画化を熱望。一方、マイケル・ジャクソンも自宅の庭にネバーランドと呼称する遊園地を作ってしまう程『ピーター・パン』の大ファンであった為、両者は意気投合し映画化を企画します。
この話が広く報道されると「黒人のマイケルがピーター・パン?」という、まるで昨今のポリコレのゴリ押しを疑問視する声と同様の反応が出る一方で、「ピーター・パンにはマイケルが適役」という反応も多くありました。
しかし、1985年に女優のエイミー・アーヴィングと結婚(後に離婚)した事で、人生の価値観に変化があったスティーブン・スピルバーグは、原作通りのピーター・パンではなく、大人になったピーター・パンを描こうと考えます。しかしマイケル・ジャクソンは、あくまでも原作通りの大人にならないピーター・パンを演じる事を希望します。スピルバーグはマイケルを説得しますがマイケルは納得せず、その結果マイケルは企画から離れる事になりました。
その後、1991年にスティーブン・スピルバーグはロビン・ウィリアムズ&ダスティン・ホフマンの主演で、大人になったピーター・パンとフック船長を描いた『フック』を監督しています。
『オペラ座の怪人』
1986年、アンドリュー・ロイド=ウェバーがガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』をミュージカル化しブロードウェイで上演します。この舞台を観劇したマイケル・ジャクソンは作品を高く評価し、アンドリュー・ロイド=ウェバーに「このミュージカルを映画化するなら、ファントム役を是非自分に演らせて欲しい」と申し出ています。
しかし、この時点ではアンドリュー・ロイド=ウェバー版『オペラ座の怪人』の映画化の企画はなく、1989年にドワイト・H・リトル監督作品『オペラ座の怪人』が製作されていますが、ミュージカル映画ではないホラー映画の本作に、マイケル・ジャクソンがキャスティングされる事は当然ありませんでした。(同作品のファントム役は『エルム街の悪夢』のフレディ役で知られるロバート・イングランド)
アンドリュー・ロイド=ウェバー版の映画化であるミュージカル映画『オペラ座の怪人』がジョエル・シュマッカー監督で製作されたのは2004年。1990年頃から映画化の企画は進められており、ファントム役にはマイケル・クロフォード、ジョン・トラボルタ、アントニオ・バンデラス、ヒュー・ジャックマンらの名前が候補者として挙がりましたが、マイケル・ジャクソンの名前が挙がる事はありませんでした。(実際にファントムを演じたのはジェラルド・バトラー)
『バットマン リターンズ』
1989年、ティム・バートン監督作品『バットマン』が大ヒットします。同作品を見たマイケル・ジャクソンは劇中に登場したバットモービルを購入したいと、プロデューサーのジョン・ピーターズ&ピーター・グーバーに打診します。するとジョン&ピーターは「バットマンの続篇にロビン役で出演してくれるなら、バットモービルを譲ってもいい」と返答します。同時にジョン&ピーターは「バットマンの続篇に登場するキャットウーマン役にはマドンナを起用したい」と発言します。これが実現すれば2大シンガーが共演する事になったのですが、賢明な映画ファンは「ジョン・ピーターズとピーター・グーバーの言っている事だからなぁ……」と、話半分で捉えていました。そもそもティム・バートン監督は自身が監督する『バットマン』シリーズにロビンを登場させる事には消極的でしたし、(但し、バットマンに協力する黒人少年ボーイの登場を構想していた事もあり、これがマイケル・ジャクソン=ロビン案に繋がったものと思われます)ジョン&ピーターがマイケルの出演にどこまで本気であったのかも定かではありません。実際にマイケルがバットモービルを購入したかどうかも不明です。
公開された『バットマン リターンズ』に登場したバットモービルは新しく製作されたものでしたが、ロビンは登場していません。尚、キャットウーマン役はマドンナではなく、アネット・ベニングがキャスティングされましたが妊娠していた事が判り降板、新たにミシェル・ファイファーがキャスティングされています。
因みにアネット・ベニングの夫であるウォーレン・ベイティが主演したコミックスの映画化作品『ディック・トレイシー』にマドンナは出演しています。
『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』
1986年、ディズニーランドのアトラクション映画『キャプテンEO』でタッグを組んだマイケル・ジャクソンとジョージ・ルーカス(製作総指揮)。そのジョージ・ルーカスが16年ぶりに『スター・ウォーズ』を復活させると知ったマイケルは出演を熱望。一説によればジャー・ジャー・ビンクス役を望んでいたと言われています。
マイケルは自身のショートフィルム『スリラー』で、リック・ベイカーの手による特殊メイクで狼男&ゾンビに扮していますが、それと同様に特殊メイクでジャー・ジャー・ビンクスを演じたかった様です。
しかしジョージ・ルーカスは『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』に関しては、その大半をCGによるデジタル技術で映像化する意向であった為、マイケルの要望は受け容れられませんでした。
実際にジャー・ジャー・ビンクスを演じたのは、ブロードウェイを中心に活動するダンス・グループ「ストンプ」のメンバーだった黒人のアーメド・ベスト。ジョージ・ルーカスはマイケル・ジャクソンのステージを訪ね、アーメド・ベストを紹介する事でマイケルに断りを入れています。
ジョージ・ルーカスは 「マイケル・ジャクソンが『スター・ウォーズ』に出演」となれば、観客の関心がマイケル=ジャー・ジャー・ビンクスに集中してしまい、アナキン、オビ=ワン、クワイ=ガン、パドメ、ダース・モールといった物語の中核を担うキャラクターが霞んでしまうとも考えていた様です。
※番外
『スリラー』の劇場公開
一般的にはMTVと捉えてられているマイケル・ジャクソンの『スリラー』の映像作品ですが、マイケル本人はショートフィルム(短篇映画)と呼称していました。そして上記のスティーブン・スピルバーグ監督、マイケル・ジャクソン主演の『ピーター・パン』が実現した際には、その併映として『スリラー』を劇場公開する案がありました。これは『スリラー』の販売がコロムビア・レコード傘下のエピック・レコードで、『ピーター・パン』の配給がコロムビア映画であった事から企画されていた様です。
マイケル・ジャクソン没後の2017年に同作品が3D化され、リマスター版と共に映画祭で上映。2018年にはアメリカで限定的ながら、イーライ・ロス監督作品『ルイスと不思議の時計』の併映としてIMAX 3D版が上映されました。
『フック』
HOOK
1991年 アメリカ
監督/スティーブン・スピルバーグ
『バットマン リターンズ』
BATMAN RETURNS
1991年 アメリカ
監督/ティム・バートン
『オペラ座の怪人』
PHANTOM OF THE OPERA
2004年 アメリカ
監督/ジョエル・シュマッカー
『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』
STAR WARS EPISODE Ⅰ PHANTOM MENACE
1999年 アメリカ
監督/ジョージ・ルーカス
『スリラー』
MICHAEL JACKSON'S THRILLER
1983年 アメリカ
監督/ジョン・ランディス
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