過日、上映終了間近のタイミングで『インフィニティ・プール』を鑑賞しました。


罪を犯し死刑宣告を受けた者が、自らのクローン人間を身代わりにする……

粗筋だけを聞けば、1970年代ならチャールトン・ヘストンが出て来そうなディストピア作品、1990年代ならジャン=クロード・ヴァンダムが出て来そうなSFアクション作品になりそうですが、今は2020年代。監督が、デヴィッド・クローネンバーグの息子で『アンチヴァイラル』『ポゼッサー』のブランドン・クローネンバーグですから、トリップ感覚溢れるクセの強い倒錯的な魅力の作品になっています。


劇中に登場する様な精工なクローン人間がATMから引き出せる範囲の額の現金で複数体製造出来るなら、死刑囚の身代わりなんて使い方よりもっと有効的な活用方法があるでしょうに。そうすれば彼の国も経済が良くなり治安も改善するだろうに……という突っ込みは、この作品に限れば野暮でしょう。


『インフィニティ・プール』で描かれているのはSF的な設定を背景とした寓話の類いではなく、クローン人間という玩具を与えられた人間、若しくはそのコミュニティの理不尽さである様に感じられます。


映画のラストシーンは、主人公のジェームズ(演:アレクサンダー・スカルスガルド)は帰国するのを止め彼の国に留まる処で幕引きとなるのですが……

劇場に居合わせた2人組の観客が帰り際にしていた会話が聞こえてきました。「あの人、何で国に帰らなかったんだろう」「まだ小説のアイディアを思い付いていないとか?」……ああ、成程。そういう解釈も成り立ちますねぇ。小説のアイディアと言うか、1人の人間として元居た世界に帰って語るべき何かが有るのか……?


『インフィニティ・プール』を見て思い出したのが、本作と真逆の感覚で製作された痛快SFアクション映画『複製人間クローンマスター』です。

劇場映画ではなくテレビ映画で、もしかするとテレビ・シリーズ化を視野に入れたパイロット版だったかもしれません。私がテレビで見たのは……多分、1981年〜1982年頃。データによれば作品製作は1978年。


粗筋は青年科学者サイモン(演:アート・ヒンドル)が自分の細胞を利用してクローン人間を生み出す。覚醒したクローン人間は自分がオリジナルだと言い出し……という事で、オリジナルとクローンのアイデンティティを巡るサスペンスが展開……するかと思いきや、サイモンが詳細を語ると意外にあっさりクローンは「そうか、僕がクローンだ」と納得するのです。オリジナルとクローンは記憶や知覚を共有出来るのですが、それが自分のモノなのか他者のモノなのか、しっかり判別出来るので、どちらがオリジナルでクローンか自覚出来るという訳です。

サイモンはその後も複数体(12人)の自身のクローンを生み出すのですが、それを知った組織がクローン技術を強奪しようと暗躍、サイモンは組織と戦う事になる……という展開。

殆ど「複製戦隊クローンレンジャー」化したサイモン達は組織を退け、ラストシーンはクローン達が髪の色や瞳の色を変え新しい名前を名乗り、それぞれが1人の人間として世界各地に旅立って行き、それを「やっぱり1号が一番貴方に似ているわね」と語る恋人ガッシー(演:ロビン・ダグラス)と共に見送るサイモン……という展開。クローン人間を新たなヒーローとして描いた作品でした。

仮にシリーズ化が実現していれば再びサイモンとクローン達が集い、世界平和を揺るがす陰謀に立ち向かうというスパイ・アクション的な内容になっていたかと思います。



『インフィニティ・プール』

INFINITY POOL

2023年 カナダ/ハンガリー/フランス

【出演】

アレクサンダー・スカルスガルド

ミア・ゴス

クレオパトラ・コールマン

トーマス・クレッチマン

ジャリル・レスペール

アマンダ・ブルジェル

ドゥンジャ・セブチッチ

アダム・ボンツ

ジジャド・グラチッチ

アマール・ブクヴィッチ

【監督】

ブランドン・クローネンバーグ



『複製人間クローンマスター』

THE CLONE MASTER

1978年 アメリカ

【出演】

アート・ヒンドル

ロビン・ダグラス

エド・ローター

ラルフ・ベラミー

ジョン・ヴァン・ドリーレン

マリオ・ロカッツォ

ステイシー・キーチ・シニア

ルー・ブラウン

ビル・ソレルス

ロバート・カーンズ

【監督】

ドン・メドフォード