シネマティック・ユニバースの欠点の1つに、作品の数が増えてくると“一見さんお断り”になってしまう事があります。
内容に厚みのある作品群なら、それが逆に醍醐味となり「このシリーズを見続けていて良かった」となるので常連のファンだけを相手にしていても、ビジネスは成り立ちますが限界はある訳で、やはり新規のファンの獲得が重要になってきます。
昨今のシネマティック・ユニバースの流行は勿論、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)の成功が切欠です。
現在のMCUは『アベンジャーズ インフニティ・ウォー』『アベンジャーズ エンドゲーム』でピークを迎え、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』のヒットはありましたが、以降は興行的にも質的にも下降線を辿っている様に見えます。恐らくMCUは『ファンタスティック・フォー』のリブート版が公開されるまでは浮上出来ない気がします。(元々が20世紀フォックスの『デッドプール&ウルヴァリン』とソニー・ピクチャーズの『クレイヴン・ザ・ハンター』は一先ず除きます)
レジェンダリー・ピクチャーズは『GODZILLA ゴジラ』製作の時点で『キングコング』の映画化権を取得、早い段階から『ゴジラVSコング』の製作を見据えた計画を立てており、場合によっては『パシフィック・リム』『グレートウォール』とのクロスオーバーも視野に入れていたとも言われていました。
MCUに対抗してモンスターバースと名付けられたシリーズでしたが、計算外の事が起きてしまいました。『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が興行的にコケはしなかったものの、期待された成績を挙げる事が出来なかったのです。原因は……ゴジラは兎も角、キングギドラ、ラドン、モスラは、平均的なアメリカ人には馴染みが薄かったから……?
レジェンダリー・ピクチャーズにとって次回作の『ゴジラVSコング』は、謂わばモンスターバース版『アベンジャーズ』であり、絶対に外す事の許されない作品でした。その為に思い切った方向転換を図る事になります。それは……“一見さん大歓迎”路線へ舵を切る事でした。
TOHOシネマズのシネアド『紙兎ロペ』より
アキラ
「そこまで詳しくねぇんだわ、ゴジラ」
ロペ
「あ〜大丈夫っす。兎に角、地球最強って事さえ覚えておけば。全員ボッコボッコっす」
アキラ
「でも、コングも詳しくねぇんだよな」
ロペ
「それも大丈夫っす。兎に角、地球最強って事さえ覚えておけば。全員ボッコボッコっす」
アキラ
「いやいや、一緒じゃねぇかよ!」
……正に、そんな路線へと変貌を遂げたのです。
この路線変更で割りを食ってしまったのが小栗旬でした。小栗旬演じる芹沢蓮は、その名前からも解る様に『GODZILLA ゴジラ』『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で渡辺謙が演じた芹沢猪四郎の息子……の筈でした。タイタン(怪獣)との共存を訴える父親と真逆の立場をとる息子。当然そこには親子の対立のドラマがあり、更には芹沢蓮はシモンズ(演:デミアン・ビチル)をも上回る真のラスボスとして君臨する……筈だったと思われます。
しかし紙兎ロペの言う処の「大丈夫っす」路線となった為に、これらの要素は全て削除され、芹沢猪四郎と芹沢蓮が親子かどうかすら曖昧になり、芹沢蓮はメカゴジラのオペレーションに失敗し泡を吹いて倒れる……そんなキャラクターになってしまいました。
(上述の削除された部分は、脚本にはあったが撮影されなかったのか、撮影されたが編集でカットされたかは不明)
一部マスコミが小栗旬の出番の少ない理由として、小栗旬の演技力や英会話能力を揶揄する様な表現の報道をしていましたが、実際は上述の路線変更が理由でした。
因みにチャン・ツィイーとジェシカ・ヘンウィックの2人は『ゴジラVSコング』に出演した筈でしたが、上述の理由で出演シーンが全て削除されています。
その『ゴジラVSコング』の続篇『ゴジラ×コング 新たなる帝国』は、果たしてどの様な作品だったのか?
往年の「東宝チャンピオンまつり」的な、良い意味で『ゴジラ −1.0』との差別化が図られている作品です。
加えて『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のラストシーン同様に、『ライオン・キング』……もとい『ジャングル大帝』に準えた場面が散見されます。
“走るゴジラ”に違和感を持つ方もいる様ですが、『ゴジラ対メガロ』ではゴジラは走って決戦の場へやって来た様に見えますし、TVドラマ・シリーズ『流星人間ゾーン』の児童向け雑誌に掲載されたコミカライズ版では、ゾボットに誘導されたゴジラが激走する描写がありましたから……まぁ、よろしいのではないかと。
(それ以前に『ゴジラ対ヘドラ』でゴジラは空を飛んでいますし、1998年版『ゴジラ GODZILLA』ではミサイルよりも早く、でもイエローキャブには追いつけない速さでゴジラは走っていましたし……)
これまでの怪獣映画と言えば、費用のかかる特撮場面を出来るだけ減らし、人間ドラマで物語を繋ぐセンスが創り手に求められのですが、『ゴジラ×コング 新たなる帝国』は人間ドラマより怪獣の登場場面の方が多いという、贅沢な構成です。
そして展開される怪獣ドラマが……怪獣のコミュニティが人間と殆ど同じという「東宝チャンピオンまつり」を遥かに凌駕する描写で綴られます。
※コングとスーコの会話
コング
「君、ひもじくない?」
スーコ
「ひもじくなんか無いやい!」
コング
「これを食べなさい。そこの湖で捕ったばかりのドラウィンヴァイパーです」
※グレイト・エイプ達の前にコング登場
スカーキング
「働け!この俺様の為に働け!根性見せてみろ!!!!」
(コング登場)
グレイト・エイプ
「あ、アナタ様は……バー●バリ!」
※ゴジラとコングとモスラの会話
ゴジラ
「コング!おどりゃあ、縄張破りしくさって!!!!」
コング
「待ってくれ、ゴジラの兄弟ぇ。これには事情が……」
ゴジラ
「事情もクソもあるかい、この外道が!」
モスラ
「お止め、二人共!」
ゴジラ
「モスラの姐さん……姐さんが出張ってきたという事は、退っ引きならねぇ事情がある様で」
コング
「……ほうじゃけぇワシャ、最初からそう言うとろうが」
※ゴジラとシーモの会話
シーモ
「ハッ、俺は一体……?」
ゴジラ
「どうやら目が覚めたようじゃのう」
シーモ
「……アンタは、もしかしてゴジラさんで?」
ゴジラ
「おうよ。ワシがゴジラよ」
シーモ
「俺は、一体何を仕出かしたんで?」
ゴジラ
「スカーキングの腐れ外道によ、ええ様に操られとったんじゃ」
シーモ
「おのれスカーキング!兄貴さん、この不始末のケジメはワシがキッチリつけますけぇ!!!!」
ゴジラが空を飛んだり、ゴジラとアンギラスが漫画の吹き出しで会話をしたり、ゴジラがドロップキックをブチかましたりする映画を、スタンダードとして見ていた者にとっては、充分楽しめる作品であります。
主役はコングであり、ゴジラが客演扱いになっているのは……怪獣で人間的ドラマを展開させるのが本作の意図ですから、歯痛で悩むのはゴジラとコングのどちらになるのかとなれば、コングになるのは当然です。
或いは……前作『ゴジラVSコング』で東宝とレジェンダリー・ピクチャーズとの間で結ばれていた、ゴジラを筆頭とした東宝怪獣キャラクターの使用契約が一旦終了した為に、次回作は『コングの息子』になるかもしれないと言われていた時期があり、ゴジラ抜きのストーリーで企画が進められていたものの、改めて東宝怪獣キャラクターの使用契約が結ばれたので、急遽ゴジラをストーリーに絡めた……故にゴジラ及びモスラが客演扱いになったのかもしれません。
入場者特典?