動物パニック系のホラー映画と言うと、古典的な作品としては1954年『黒い絨毯』、1963年『鳥』が有名で、1975年『JAWS ジョーズ』の記録的大ヒット以降、様々な動物が人間を襲撃する様になりました。

昨年は『キラー・カブトガニ』なる作品が公開されていますが、そのショックが冷めた頃に登場したのが本作『キラー・ナマケモノ』です。

  

原題『SLOTHERHOUSE』の「SLOTHER」は「殺戮」を意味する「SLAUGHTER」と「ナマケモノ」の意味する「SLOTH」とを掛けた造語だそうです。


カート・ヴォネガット・ジュニア原作の小説でジョージ・ロイ・ヒル監督で映画化もされた『スローターハウス5』にも掛けたタイトルだと思いますが、内容的にはあまり関係ない様です。


『キラー・ナマケモノ』に登場するナマケモノ=アルファは、いい意味で出鱈目なナマケモノで……パソコンを操作する、シャワーのカランを熱水にして火傷させる、電線をぶった切って感電させる、スマホでナビ検索をする、車を運転する(アクセルに足は届くのか?)、酸素吸入器を壊す、SNSに自撮り画像を投稿する、そして野生のワニより強い……といった具合。

この行動、何かに似てるなぁと思っていたら、劇中でブリアナ(演:シドニー・クレイヴン)が教えてくれました。「チャッキー!」。


一応『チャイルド・プレイ』のチャッキーは、連続殺人鬼が自身の魂をブードゥー教の魔術で人形に移したという、もっともらしい設定がありましたが、『キラー・ナマケモノ』のアルファは、脚本家が開き直ったかの如く、もっともらしい設定が省かれています。早い話が「理屈じゃないんです」。


アルファの殺戮行為も残虐な印象ではなく、『グレムリン』にも似た悪質過ぎる悪戯の印象を受けます。


『キラー・ナマケモノ』の舞台は女子大学の寮。この手合いの映画では御馴染みの学園カーストが描かれています。かつては学園カーストの頂点はジョックス&クィーンで、そのクィーンはチアリーダーだったりした訳ですが、本作ではSNSを使いこなす?インフルエンサーだったりします。ここら辺りは現代的な設定でしょうか。

今回のクィーンは、この女子寮の学生クラブの現会長ブリアナなのですが、絵に書いた様なイヤ〜な奴。尤も主人公のエミリー(演:リサ・アンバラバナール)も、潜りのバイヤーとはいえペット業者の家から勝手にナマケモノのアルファを連れ出す様な女子で……他にも脳筋女子ゼニー(演:ビアンカ・ベックルズ=ローズ)、アル中寮母のメイ(演:ティフ・スティーヴンソン)等、劇中の登場人物は基本的にバカばっかりです。唯一バカではない女子としてマディソン(演:オリビア・ルーリェ)が居ますが、彼女は哀れアルファの犠牲に……と思わせて、上述の「理屈じゃないんです」的見せ場があり、結果的に真っ当な人物では終わりません。(因みにオリビア・ルーリェはユーチューバーから女優になったという経歴の持ち主で、現役のインフルエンサー。謂わば劇中の女子の夢を実現させた様な人です)

エミリーの彼氏タイラー(演:アンドリュー・ホートン)が数少ない男性キャラクターとして登場しますが、役立たず野郎です。(泣)


出鱈目なナマケモノに、バカばっかりの登場人物。しかし、これは意図的に創り上げられたものであり、そこで展開されるストーリーは見事なまでにコントロールされ、痛快なホラー映画に仕上がっています。(メインキャラクターに黒人やアジア人やLGBTQの人物が存在せず、大してポリコレに配慮していない辺りは潔さを感じます)


昨年、パブリックドメインになった児童文学をホラー映画化した作品がありましたが、あの作品の創り手に決定的に欠けているセンスが『キラー・ナマケモノ』の創り手には備わっている様です。


日本語字幕スーパーでは「SLOTHER」を「生獣=ナマケモノ」と訳していましたが、妙訳です。


入場者特典



『キラー・ナマケモノ』
SLOTHERHOUSE
2023年 アメリカ
【出演】
リサ・アンバラバナール
シドニー・クレイヴン
オリビア・ルーリェ
ビアンカ・ベックルズ=ローズ
ティフ・スティーヴンソン
アンドリュー・ホートン
ステファン・カピチッチ
サッター・ノーラン
ミルツァ・ヴルジッチ
アナマリア・セルダ
【監督】
マシュー・グッドヒュー
【製作/脚本】
ブラッドリー・フォウラー
キャディ・ラニガン