“倉田保昭 日本凱旋50周年記念”と称して2024年7月24日より『帰って来たドラゴン』(1974年 香港)がリバイバル上映されます。(東京公開。後に全国順次公開との事)

倉田保昭は元々は東映演技研修所の第一期生。1966年に俳優デビュー。1971年に香港に渡り、当時東南アジア最大の映画会社だったショウ・ブラザース製作のクンフー映画『続・拳撃  悪客』『四騎士』に出演。その後は香港、台湾、フィリピン、中国、そして日本……とアジアを股にかける大活躍を見せます。


香港では契約していた映画会社の縛りの為にブルース・リーとの本格的共演こそ実現しなかった(1972年の『麒麟掌』で瞬間的に共演?)ものの、デビッド・チャン、ティ・ロン、ジミー・ウォング、ブルース・リャン、リュー・チァーフィー、シャンカン・リンフォン、ヤン・スエ、チェン・シン、サモ・ハン・キンポー、ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、ジェット・リー、サミュエル・ホイ、カール・マック、シルビア・チャン、ディーン・セキ、チョウ・ユンファ、アンディ・ラウ、ドニー・イェン、イーキン・チェン、マックス・チャン……と、時代を越えて錚々たる俳優陣と共演しています。


香港映画では、倉田保昭は作品によっては英語表記で「YASUAKI KURATA」ではなく、「CANG TIAN BAO ZHAO(ツァンティエン・パオザオ)」或いは「SHOJI KARADA(ショージ・カラダ)」とされる事がありました。前者は「倉田保昭」の中国語読み、後者は「クラタ」が訛って「カラダ」なのでしょうが「ショージ」は何処から?


『帰って来たドラゴン』で倉田保昭が演じるのは主人公の敵役(英語版では”ブラック・ジャガー”)なのですが、それでもこの作品は倉田保昭の日本凱旋映画でもあり、邦題の“帰って来た”は実は倉田保昭を指した言葉でもありました。


さて、話は少し遡りまして……

1973年12月、アメリカ/香港合作のブルース・リー主演作『燃えよドラゴン』が劇場公開されるまで日本では香港映画の需要は殆どありませんでした。日本/香港合作映画や香港ロケーションを敢行した邦画はありましたが、香港映画と言えるのは1955年製作(日本公開1957年)『海棠紅』、1959年製作(日本公開1962年)『江山美人』、1967年製作(日本公開1968年)『血斗竜門の宿』等、数本が限定的に公開されただけでした。


名古屋市映画案内より

1973年12月21日

『燃えよドラゴン』

『アマゾネス』

グランド劇場(前夜祭)

名古屋市映画案内より
1973年12月22日
『燃えよドラゴン』
『アマゾネス』
グランド劇場
名古屋市映画案内より
1974年3月23日
『燃えよドラゴン』
『ダイナマイト諜報機関 クレオパトラ危機突破』
グランド劇場
“豪快空手2本立て!”と宣伝

1973年12月22日に日本公開された『燃えよドラゴン』は大ヒットを記錄。“香港カラテ映画”は一躍新たなジャンルとして注目を集め、日本の映画バイヤーはブルース・リー主演作品だけではなく、それに続く作品を求めて香港へ飛びました。そして洋画系劇場では“ドラゴン”のタイトルの付いた映画が次々に公開され、邦画系劇場でも日本語吹替版の“香港カラテ映画”が続々と公開される事になるのです。


『片腕ドラゴン』

1974年2月8日(東京公開)

名古屋市映画案内より

1974年3月9日(名古屋公開)

『片腕ドラゴン』

『殺しのギャンブル』

毎日ホール大劇場

名古屋市映画案内より
1974年3月9日

『怒れ!タイガー』

『喜劇 男の腕だめし』

名古屋松竹座/東映パラス/スズラン松竹

レオ名画座/内田橋劇場/シバタ劇場

※日本語吹替版の上映



名古屋市映画案内より
1974年3月23日
『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』
『赤ちょうちん』
駅前シネマ/東映名画座/日活シネマ
大曽根日活有楽座/今池平和劇場/堀田日活
八熊文化
※日本語吹替版の上映


名古屋市映画案内より
1974年4月13日
『危うし!タイガー』
『喜劇 夜光族』
名古屋松竹座/東映パラス/スズラン松竹座
レオ名画座/内田橋劇場
※日本語吹替版の上映


名古屋市映画案内より
1974年4月17日(地方先行公開)
『子連れドラゴン女人拳』
『すけばん刑事 ダーティ・マリー』
駅前シネマ/東映名画座/日活シネマ
大曽根日活有楽座/今池平和劇場/堀田日活
※日本語吹替版の上映





『ドラゴン危機一発』
1974年4月12日(東京公開)
名古屋市映画案内より
1974年4月27日(名古屋公開)
『ドラゴン危機一発』
『ドーベルマン・ギャング』
毎日ホール大劇場/エンゼル東宝

『帰って来たドラゴン』
1974年3月21日(東京公開)
名古屋市映画案内より
1974年4月27日(名古屋公開)
『帰って来たドラゴン』
『女体の神秘』
セントラル劇場/堀田グレート劇場
※セントラル劇場/堀田グレート劇場の次回作品
『武道大連合 復讐のドラゴン』
『嵐を呼ぶドラゴン』

『帰って来たドラゴン』の主人公(英語版では“ゴールデン・ドラゴン”)を演じるのはブルース・リャン。ブルース・リャンは16歳で香港映画界入り。武術指導やスタントマン、助演でキャリアを重ね、1973年にウー・シーユエン監督に見い出され『必殺ドラゴン 鉄の爪』に主演。但しこの作品、香港では1975年12月まで公開がずれ込みます。(日本では香港に先駆け1974年5月公開)次いで、同じウー・シーユエン監督で製作されたのが『帰って来たドラゴン』です。
同作品は香港では1974年3月9日公開。日本では同年の3月21日公開(名古屋市では少し遅れて同年4月27日公開)ですから、正に最新作だったのです。

ブルース・リャンはその芸名から、ブルース・リーのソックリさん俳優と間違われる事が多く、香港映画界の情報が精査されていなかった当時の日本では“ブルース・リャンはブルース・リーの弟子”という出処不明の誤った情報が流布していましたが、彼の実力は本物でした。

1970年代初頭の香港のクンフー映画の俳優の中で、多彩な蹴り技で魅せる事が出来たのは、日本出身の倉田保昭、韓国育ちのタン・トゥリャン、韓国出身のウォン・インシックを除けば、ブルース・リーとブルース・リャンの2人だけでした。ブルース・リーのアクション演出は、日本の時代劇(『座頭市』『眠狂四郎』等)に影響を受けたと思しき緩急を付けたスタイルであったのに対し、『帰って来たドラゴン』でブルース・リャンと倉田保昭が見せたアクションはハイスパートなスタイルで、走りながら場所を変えながら、様々なシュチエーションで目まぐるしく闘うというものでした。
蹴り技の達人同士、ブルース・リャンと倉田保昭は相性が良かったのか、やはり同じウー・シーユエン監督作品『無敵のゴッドファーザー ドラゴン世界を征く』でも共演。更に日本に凱旋帰国した倉田保昭 主演のTVドラマ・シリーズ『闘え!ドラゴン』でも2人は共演しています。
倉田保昭にとっても『帰って来たドラゴン』は御自身のベスト作品だった様で、随分前に倉田さんのスタジオを訪れる機会があったのですが、其処には額に入った『帰って来たドラゴン』の香港公開版のポスターが飾られていました。

ブルース・リャン&倉田保昭のベスト・パフォーマンス作品と言っても過言ではない『帰って来たドラゴン』。日本では劇場公開後は1980年代半ば位までは時折テレビで放送される事がありましたし、1981年に劇場公開された『ブルース・リー 死亡の塔』の併映として一部地域限定で再公開された様で、後にビデオも販売されましが、2001年に89分版のDVDが発売された以降は再見の機会に恵まれませんでした。オリジナルネガの一部損傷により作品のHD化が困難な状況にあった事から、ウー・シーユエンによって半ば封印状態にあったのです。しかし今回そのウー・シーユエンによって99分版のマスターが発見された事で作品の2K化が行われ、晴れて今年7月の劇場再公開が実現する事になったのです。
(一つ気になるのは“『帰って来たドラゴン』のオリジナルネガに一部損傷があった”という点です。そうなると、他のウー・シーユエン監督作品……例えば上述の『必殺ドラゴン 鉄の爪』『無敵のゴッドファーザー ドラゴン世界を征く』、ブルース・リャン主演『三傻笨探小福星』、日野康一 著「ドラゴン大全科」で“なかなかいい映画”と紹介されていた倉田保昭 出演『猛虎下山』等のオリジナルネガの状態です)

今回の『帰って来たドラゴン』再公開では倉田保昭 製作による短編映画が併映となる予定です。

余談ですが……
『帰って来たドラゴン』の名古屋市での併映だった『女体の神秘』は、1967年に西ドイツで製作され1968年に日本で初公開されたエリック・F・ベンデル監督作品。ヘルガという女性の結婚、妊娠、出産を映し出した、性科学映画と呼ばれたジャンルの作品です。惹句は“パパ、ママになる前に見る映画” “超マイクロ・カメラによって世界最初の胎内撮影に成功した驚異の長篇実験映画”。真面目な映画なのですが、それを建前にエロティックな映像を期待する男性客に其れ相応に需要があった様で、1982年にもリバイバル公開されています。
『帰って来たドラゴン』『女体の神秘』の2本立ては、お得感溢れる編成だった……かもしれません。


『帰って来たドラゴン』
神龍小虎闖江湖 CALL ME DRAGON
1974年 香港
【出演】
ブルース・リャン
倉田保昭
ウォン・ワンシー
チャン・ナイ
ホン・クワックチョイ
マン・ホイ
ディーン・セキ
スン・ラン
ウォン・キンクワン
チョウ・シウロイ
【監督】
ウー・シーユエン