3月22日~4月4日の日程で、『名探偵ホームズ』がリバイバル上映されていました。
『名探偵ホームズ』はイタリアの国営放送RAIが企画し、実務をREVERに依頼。更にREVERが日本の東京ムービー新社に製作を発注する形で製作されたTVアニメ・シリーズです。
コナン・ドイルが執筆した小説『シャーロック・ホームズ』シリーズを原作とし、イタリア側の要請で登場人物を全て擬人化した犬で表現した作品となっています。
演出を担当したのは宮崎駿。1981年から製作が開始されています。作品の内容は原作小説の様なミステリーではなく活劇に重点が置かれており、宮崎駿監督作品の『未来少年コナン』や『ルパン三世 カリオストロの城』にも通じる演出もあります。
しかし、6話分が製作された段階で製作中断状態になってしまいます。
中断の理由は……イタリア側がコナン・ドイルの原作権の取得に手間取った事(アニメ製作は見切り発車状態だった)、宮崎駿を筆頭に主要スタッフが日米合作アニメーション映画『NEMO ニモ』に関わる事になった事、イタリア側の資金繰りが悪化した事…:…等が挙げられています。
製作中断状態になった『名探偵ホームズ』ですが、徳間書店発行のアニメ専門誌「アニメージュ」が積極的に誌面で紹介した事で、ファン注目の作品となっていきました。
1983年の末頃、「アニメージュ」の読者投稿欄に1通の投書がありました。内容は「来年(1984年)3月に劇場公開される『風の谷のナウシカ』の併映で『名探偵ホームズ』を上映出来ないか」というものでした。
この投書を受けての事なのかどうかは定かではありませんが、『風の谷のナウシカ』の製作を手掛けていた徳間書店が東京ムービー新社に交渉、本当に1984年3月11日より東映の配給で『風の谷のナウシカ』の併映として『名探偵ホームズ』が公開される事になったのです。
上映されたのは「青い紅玉の巻」「海底の財宝の巻」の2話だけでしたが、幻の作品が見られるという事でファンは諸手を挙げて大歓迎しました。(因みに、コナン・ドイルが手掛けた『シャーロック・ホームズ』シリーズの中に「青い紅玉」という作品がありますが、特に関係はありません)
ただ、1984年3月の時点ではコナン・ドイルの著作権を取得出来ていなかった為に、「シャーロック・ホームズ→シャーベック・ホームズ」「モリアーティ教授→モロアッチ教授」「ハドソン夫人→エリソン夫人」「レストレード警部→レストランド警部」とキャラクター名が変更されており、エンディング・ロールでは「この作品はコナン・ドイルの原作に基づくものではありません」とクレジットされていました。事情を知らない当時のファンは「???」となったものです。
それにしても……製作/藤岡豊 演出/宮崎駿 脚本/片渕須直 作画/近藤喜文……もの凄いメンバーが名前を連ねていました。
1984年3月の映画興行はアニメーション作品の公開ラッシュでした。
<3月10日公開>
【東映】(邦画系)
『少年ケニヤ』
『スヌーピーとチャーリー・ブラウン』
<3月11日公開>
【東映】(洋画系)
『風の谷のナウシカ』
『名探偵ホームズ』
【松竹】
『超人ロック』
『未来少年コナン 特別篇 巨大機ギガントの復活!』
<3月17日公開>
【東宝】
『映画 ドラえもん のび太の魔界大冒険』
『忍者ハットリくん+パーマン 超能力ウォーズ』
【サンリオ】
『おしん』
【松竹富士】
『ウルトラマンキッズ M7.8星雲のゆかいな仲間』
『ウルトラマンZOFFY ウルトラの戦士VS大怪獣軍団』(実写)
【ヘラルド】(地方都市)
『綿の国星』
この時の劇場公開が切欠となり『名探偵ホームズ』は製作再開が決まり、御厨恭輔 演出により20話が新規に製作され、宮崎駿 演出で先に製作されていた6話を加えて、1984年11月6日よりテレビ朝日系で放送される事になりました。
この時は著作権が取得されており、「原作/コナン・ドイル」とクレジットがあり、登場キャラクターの名前も原作に殉じたものになっています。
TVアニメ・シリーズでは演出だけではなく、劇伴も村松邦男から羽田健太郎へと変更。
劇場版では桑名晴子 歌唱の「グッドバイ・スウィートハート」「冒険のアリバイ」が劇中歌、エンディング・テーマとして使用されていましたが、TVシリーズではダ・カーポ 歌唱の「空からこぼれたSTORY」「テームズ河のDANCE」がオープニング・テーマ、エンディング・テーマとして使用されています。
更に出演者も、柴田侊彦→広川太一郎(シャーベック・ホームズ→シャーロック・ホームズ)、信沢三実子→麻上洋子(エリソン夫人→ハドソン夫人)、二又一成→千田光男(スマイリー)、肝付兼太→増岡弘(トッド)、玄田哲章→飯塚昭三(レストランド警部→レストレード警部)へと変更されました。
TVアニメ・シリーズ放送終了後の1986年8月2日、東映配給による宮崎駿 監督作品『天空の城ラピュタ』の併映として『続 名探偵ホームズ』が公開。
作品はTVシリーズの中からハドソン夫人が活躍するエピソード「ミセス・ハドソン人質事件」「ドーバー海峡の大空中戦」がセレクトされての上映でした。
テレビ放映されたエピソードを2話続けての上映でしたので、特に改変された部分はありませんでした。
当時は宮崎駿 監督作品と言えど1本立て上映はリスクがあると判断され、お得感を出す為に敢えて既にテレビで放送済みの作品との2本立て興行となった様です。
テレビ放映時、「ミセス・ハドソン人質事件」内でハドソン夫人が19歳と知って驚いたファンが多数いました。コナン・ドイルの原作では『最後の挨拶』を除いて、それほど活躍をする人物でもなく、少なくとも20歳前の女性とは思えません。この年齢設定はイタリア側の要望か、それとも宮崎駿 監督の意向?
1986年の夏の映画興行は……
<7月19日公開>
【東宝 洋画系】
『コルドロン』
『101匹わんちゃん』(再映)
<8月2日公開>
【東映 洋画系】
『天空の城ラピュタ』
『続 名探偵ホームズ』
……奇しくもスタジオ ジブリVSウォルト・ディズニー・スタジオの興行合戦が展開される形になっていました。
今回の上映は、上述の『名探偵ホームズ』『続 名探偵ホームズ』を連続上映したものです。(エンディング・クレジットの「東京ムービー新社」の表記が「トムス・エンタテインメント」に差し替えられています)
故に……予備知識の無い方は、キャラクターの名前や声優が途中で変わるだけではなく、第2話終了後のエンディング・クレジットで「この作品はコナン・ドイルの原作に基づくものではありません」と画面に映し出された直後、第3話のオープニング・クレジットに「原作 コナン・ドイル」と映し出されるのを見て混乱するのでは……?
余談その1。
今回上映の『名探偵ホームズ』の第4話である「ドーバー海峡の大空中戦」ですが、内容はロンドン〜パリ間で開業した航空郵便を妨害して廃業に追い込み、事前に大量購入していた航空郵便開業の記念切手をプレミア化させようとするモリアーティ教授の野望?という……何と、モリアーティ教授が転売ヤーとなっています。
勿論、モリアーティ教授の計画は失敗。しかしモリアーティ教授は懲りずに、今度はロンドンの地下鉄開業の記念切手で同じ事を目論み、部下のスマイリーとトッドから呆れられてしまう……
既に40年前、宮崎駿 監督は“転売ヤーなんて愚か者である”事を描いていた訳です。(笑)
余談その2
1985年のアメリカ映画『ヤング・シャーロック ピラミッドの謎』が日本で公開(1986年3月)された際、エンディング・クレジット後のラストシーンに「?」となった観客が結構居た様です。(当時、実際に「最後は意味が解らん」と毒づきながら帰る人がいまし、私の某知人もモリアーティ教授を知りませんでした)コナン・ドイルの原作とアニメ『名探偵ホームズ』を知っていた観客は「おおっ!」と思ったものです。
19843月11日 名古屋市映画案内
駅前シネマ/東映パラス
『風の谷のナウシカ』『名探偵ホームズ』
『名探偵ホームズ』
(『名探偵ホームズ』『続 名探偵ホームズ』)
1984年 日本/イタリア
東京ムービー新社/RAI/RIVER
【出演】
柴田侊彦/広川太一郎
富田耕生
大塚周夫
信沢三実子/麻上洋子
玄田哲章/飯塚昭三
二又一成/千田光男
肝付兼太/増岡弘
田中真弓
永井一郎
納谷六朗
【監督】
宮崎駿