メ〜テレ(名古屋テレビ)で放送中の『太陽にほえろ!』の2024年最初の放送(1月4日)で、第35話「愛するものの叫び」がオンエアされました。


ただ、今回のオンエアとしては33回放送となります。ファンの方なら御存知かと思いますが、『太陽にほえろ!』には欠番エピソードがありまして、この時点では第19話「ライフルが叫ぶとき」、第27話「殺し屋の詩」が欠番=再放送不可となっています。故に第35話が33回放送となる訳です。

欠番の理由は公式には発表されていませんが、第19話は実銃を撮影に使用した事で警視庁から注意を受けた事、第27話は劇中でマカロニが殺し屋を逮捕する事なく刺殺する展開となっている為……と言われています。あくまでも番組制作側の自主規制です。


以前に、“現在はテレビ朝日系列局のメ〜テレは1973年3月までは日本テレビとのクロスネット局で、『太陽にほえろ!』は第37話「男のつぐない」までの初回放送は東海地区ではメ〜テレ(当時は名古屋テレビ)だった事から、50年ぶりに『太陽にほえろ!』がメ〜テレ(名古屋テレビ)に帰ってきた”と記したのですが、第19話と第27話は帰って来なかったのです。


さて……第35話です。このエピソードは松田優作が、第53話「ジーパン刑事登場!」からのレギュラー出演に先駆けてゲスト出演した事でも知られています。

『太陽にほえろ!』は日活出身の映画スター石原裕次郎と、一世を風靡したGSのザ・テンプターズ、PYGのメンバーだった萩原健一との共演が売りのTVドラマとしてスタート。(因みに音楽の大野克夫もPYGのメンバー)

しかし、自身の方向性やスケジュール確保の困難さもあり、萩原健一から1年間の出演を目途に番組から降板したいという申し出がありました。(例えば第24話「ジュンのお手柄」では不自然なまでに萩原健一=早見淳=マカロニの出番が少ないのです。恐らく萩原健一 主演映画『股旅』の撮影スケジュールとの兼ね合いがあったのではないかと……)


番組プロデューサーの岡田普吉は、マカロニの後釜の刑事役に既存の俳優ではなく、無名の新人を起用する事を提案します。劇中の新米刑事と、それを演じる新人俳優の成長を重ねて描くという意向だったと思われます。第38話「オシンコ刑事誕生」から関根恵子(現 高橋惠子)演じる内田伸子=シンコが少年課勤務から捜査一係勤務になるのは、ドラマ的にどう転ぶか判らない新人俳優の起用を見越して、サポートする意味もあったのかもしれません。


有望な新人俳優を探していた岡田プロデューサーは、自身が手掛けたTVドラマ・シリーズ『飛び出せ!青春』に主演していた村野武範から「文学座の研究生に面白い役者がいる」と聞き、文学座の稽古場に見学に出掛けます。その“面白い役者”というのが松田優作だったのです。

元々『太陽にほえろ!』は番組制作スタートの時点では、新米刑事役は無名の新人を起用するつもりだったのが、当時の劇団員や劇団研究生には岡田プロデューサーが望む様な弾けた役者がおらず、渡辺プロダクションからの売り込みで萩原健一の起用となった経緯がありました。岡田プロデューサーにとっては松田優作との出会いは運命的なものだったかもしれません。


稽古場で見た松田優作の演技を高く評価した岡田プロデューサーは、『太陽にほえろ!』のマカロニに替る新米刑事役の最有力候補に松田優作を考えたのですが、その前に監督を始めとする現場のスタッフが松田優作の演技を見てどう反応するか、それを知りたくて第35話にゲスト出演させる事にした様です。(一説によれば、松田優作が新米刑事役候補である事は、現場のスタッフには伝えていなかったとか)


今、改めて『太陽にほえろ!』第35話を見ると、萩原健一と松田優作のツーショットの芝居は非常に見応えがあります。御二人の本格的共演は、この作品のみという事もあり、後に日本のTVドラマの歴史的シーンとなりました。


現場のスタッフからも、その演技を評価された事で松田優作の『太陽にほえろ!』レギュラー出演が決定します。

「『太陽にほえろ!』のレギュラー出演が決まったから、その前に箔付けとして映画に出演させよう」という事になり、松田優作が出演した劇場映画が東宝作品『狼の紋章』です。


『狼の紋章』は人狼伝説を題材にした平井和正 原作の同名小説の映画化。松田優作は志垣太郎演じる主人公 犬神明と敵対する極悪不良高校生 羽黒獰を演じています。(羽黒獰は、学ランを詰襟のホックまでしっかり閉めて、日本刀片手に、桜の並木路を徒歩で通学してくるという……元祖 面堂終太郎の様なキャラクターです)

『太陽にほえろ!』に松田優作 演じるジーパン=柴田純が登場するのは1973年7月20日。『狼の紋章』の劇場公開は1973年9月1日で、作品の放送と公開は前後しています。


『狼の紋章』の併映は『化石の森』。奇しくも萩原健一 主演作品です。更に言えば『化石の森』は石原裕次郎の実兄、石原慎太郎 原作の小説の映画化作品。……色々と縁があります。



『太陽にほえろ!』

第35話「愛するものの叫び」

1973年3月16日放送

東宝株式会社 制作/日本テレビ 放送

【出演】

石原裕次郎

萩原健一

関根恵子(現 高橋惠子)

小野寺昭

下川辰平

竜雷太

露口茂

【ゲスト出演】

小泉一十三

武田一彦

松田優作

二見忠男

向井正人

橋詰由美

小竹外登美

若狭夕紀

友田順子

加藤土代子

【プロデューサー】

津田昭

岡田普吉

清水欣也

梅浦洋一

【脚本】

鎌田敏夫

【音楽】

大野克夫

【監督】

土屋統吾郎



『狼の紋章』

1973年9月1日公開

東宝映画/東宝映像

【出演】

志垣太郎

安芸晶子

松田優作

伊藤敏孝

加藤小代子

本田みち子

沢井正延

今西正男

林孝一

黒沢年男(現 黒沢年雄)

【監督】

松本正志

【原作】

平井和正

【脚本】

石森史郎

福田純

松本正志

【製作】

田中収


『化石の森』

1973年9月1日公開

東京映画

【出演】

萩原健一

二宮さよ子

杉村春子

岩下志麻

八木昌子

田中明夫

浜田寅彦

水島弘

日下武史

岸田森

【監督】

篠田正浩

【原作】

石原慎太郎

【脚本】

山田信夫

【製作】

貝山和弘



※これまで、特定の人物を取り上げた際に、日本人に限り敬称として“さん”付けをしていましたが、これは間違いの様で、ブログ上でも敬称を付けないのがやはり正しいとの事です。2024年より改めます。