12月29日より『エマニエル夫人』『続 エマニエル夫人』『さよならエマニエル夫人』の3部作が4Kリマスター版で再公開される事が決定、私の地元の名古屋では来年の公開になる様です。

『エマニエル夫人』はシルビア・クリステル主演、ジュスト・ジャカン監督によるフランス映画。ソフトタッチのポルノ作品なのですが、日本では敢えて“女性も見られるエロティック作品”として、修整と一部場面を削除する事で成人映画ではなく一般映画として公開されました。

その反響は大きく社会現象にまでなり、一般映画という事で未成年者も目にする媒体でも、積極的に『エマニエル夫人』を紹介していました。


例えば……ザ・ドリフターズの大人気TV番組『8時だョ!全員集合』でも、前半のコント「ドリフの国語、算数、理科、社会」で『エマニエル夫人』を取り上げています。

内容は…コントの終盤で、いかりや先生が「今日は映画を見ましょう」と言って準備した映画のタイトルを読み上げます。小学校の授業(という設定)で見る映画ですから、タイトルは教育映画の類いばかり。生徒のドリフターズの面々は「つまんねぇよ」「他にないのかよ、いかりや」とブーブー文句を言います。すると、いかりや先生は「じゃあ後は、もう『エマニエル夫人』しかないよ」とポツリ。すると生徒のドリフターズの面々は「それだよ、それ!」と大盛り上がり。そして『エマニエル夫人』の上映が始まります。……タイトルは“それ”っぽい感じで映し出され、ご丁寧に『エマニエル』と日本語字幕スーパーも出ます。

ところがスクリーンに映し出されたのは、奇妙に歪んだサイケデリックな映像。音声も間延びした声で「エ〜マ〜ニ〜エ〜ル、エ〜マ〜ニ〜エ〜ル」と聞こえてきます。やがて画面が回転すると先程までのサイケデリックな映像が、芋の入った鍋のイラストになります。すると音声も「エ〜マ〜ニ〜エ〜ル、イ〜モ〜ニ〜エ〜ル、芋煮える」となり、生徒のドリフターズやゲストの歌手の面々が全員ズッコケたところで、スクリーンに「おわり」と映し出され終了、♪〜……といった感じのものです。


そんな影響もあって、当時は小学生までもが『エマニエル夫人』のタイトルだけは知っていたのです。(笑)

当時は今とは条例が異なり、街中に主演のシルビア・クリステルのトップレス姿の『エマニエル夫人』のポスターが張り出されたり、看板が設置されたりしていました。それまでドリフターズの面々が何故『エマニエル夫人』で盛り上がっていたのか解らず、雰囲気で笑っていた小学生も、そのポスターや看板を見た時に全てを理解した……訳です。

(私は当時、京都市内の屋外設置の大看板で『エマニエル夫人』『エアポート'75』、正月第二弾『日本任侠道 激突篇』『ザ・カラテ3 電光石火』、市電の車内で『007 黄金銃を持つ男』『個人生活』の広告を見ており、“京都は映画の広告が多くて良いなぁ”等と思ったものです)

現在では規制がある為に、上記の画像のポスターの様にタイトルを被せて胸を隠す必要がある様です。


『エマニエル夫人』の日本公開は1974年12月21日。地方都市ではアラン・ドロン主演の『個人生活』と2本立て公開となっています。

当時のアラン・ドロンは日本では女性に大変人気があり、”アラン・ドロン”は男前の代名詞でした。

「'75を彩る華麗なる恋のアバンチュール!フランスの香りにのせて贈る話題の2大作!」……これが、この2本立てのキャッチコピーでした。この編成からも女性観客の動員を意図しているのが解ります。

『エマニエル夫人』の配給は日本ヘラルド映画。『個人生活』の配給は東和映画。配給会社の枠を越えた2本立てでした。


名古屋市では「メトロ劇場」と「名宝スカラ座」の2館での上映となっています。


『エマニエル夫人』は大ヒット。配給の日本ヘラルド映画は『エマニエル夫人』で得た利益で、フランシス・コッポラ監督の超大作『地獄の黙示録』への出資を行なったと言われています。

『エマニエル夫人』の大ヒットを受けて、東映はシルビア・クリステルを日本に招いて製作する『エマニエル夫人 京都の休日』なる作品の企画を立てます。東映はサンドラ・ジュリアンやクリスチーナ・リンドバーグやシャロン・ケリーら海外の人気ポルノ女優を日本に招いてエロティック映画を製作した実績があり、それに続く企画でもありました。
結果としては、シルビア・クリステルにその気が無かった事と日本ヘラルド映画から東映に猛抗議があった事で幻となりました。

『エマニエル夫人』は主に日本とヨーロッパで大ヒットを記録。早速、続篇が製作されます。続篇の日本での配給権を巡って日本ヘラルド映画と東和映画と東映洋画が激しい争奪戦を展開します。それでも第1作を配給し大ヒットさせた実績が信用状になったのでしょう、『続 エマニエル夫人』も日本ヘラルド映画の配給で公開される事になります。

『エマニエル夫人』が一般映画として公開される事に苦言を呈する向きがありましたが、社会現象にまでなる大ヒットとなった事への反動も加わった事もあり、『続 エマニエル夫人』の上映にあたっては「この映画は一般向映画ですが作品の内容から中学生以下は入場をご遠慮ください」とのアナウンスが成されています。現在の「一般制限付きR指定=R15」の先駆けです。

『続 エマニエル夫人』の日本公開は1975年12月20日。2年連続でエマニエルが日本の正月映画になりました。地方都市ではオリビア・ハッセー主演のサスペンス・ホラー『暗闇にベルが鳴る』と2本立てとなっています。オリビア・ハッセーは『ロミオとジュリエット』『サマータイム・キラー』等で日本でも大人気だった女優。やはり前回同様に女性の観客動員を見込んでの編成です。
「アメリカからフランスから選び抜かれた傑作がお正月を飾ります」……これが、この2本立てのキャッチコピーでした。

名古屋市では「毎日ホール」と「名宝スカラ座」の2館での上映。前作の様な大ヒットが期待されていました。

『エマニエル夫人』の大ヒットを切欠に、類似作品が多数製作される事になります。

日本では日活が田口久美さんを主演に迎えて『東京エマニエル夫人』『東京エマニエル夫人 個人教授』を製作。東映は、その田口久美さんを引き抜き『東京ディープスロート夫人』、更には五月みどりさん主演の『かまきり夫人の告白』を製作。

イタリアでは『続 エマニエル夫人』に出演していたラウラ・ジェムサーを主演に据えた『愛のエマニエル』を製作。(製作会社を変えてシリーズ化されましたが、内容がドンドンえげつないモノになっていきました)

『エマニエル夫人』の原作者であるエマニエル・アルサンは、アニー・ベル主演作品でフランス/イタリア合作によるソフトタッチのエロティック映画『卒業生』で、原作、監督、脚本、出演まで担当しています。
同じアニー・ベル主演作品で、フランス/イタリア/イギリス合作の『愛の妖精 アニー・ベル』(二番館では『アニー・ベル 性遍歴』若しくは『愛の妖精 アニー・ベル 性遍歴』と改題)も同タイプの作品です。

ジュスト・ジャカン監督は『エマニエル夫人』に続いて、フランスの有名な官能文学の映画化作品『O嬢の物語』を手掛けています。

一方シルビア・クリステルは、『エマニエル夫人』以前に脇役で出演していたオランダ映画が『処女シルビア・クリステル 初体験』のタイトルで日本公開。更に『エマニエル夫人』シリーズに並行して、『卒業試験』『夜明けのマルジュ』『華麗な関係』と、立て続けにソフトタッチのエロティック映画に主演しています。

1977年、『エマニエル夫人』シリーズ第3作の日本公開を前に、シリーズ第1作がリバイバル公開されています。初公開時に日本では削除した場面を復活させた成人映画としての上映で、タイトルも『エマニエル夫人〈成人版〉』となっています。
名古屋市では「セントラル劇場」で1977年10月22日~28日の1週間の上映。その後、10月29日より「駅前シネマ」「堀田グレート劇場」で続映されています。併映は、イギリスの成人映画『ヤング チャタレイ』。こちらは有名な官能小説『チャタレイ夫人の恋人』の映画化ではなく、同小説から発想を得た内容の作品です。
この編成はポルノ作品の2本立て番組となっており、女性の観客動員は殆ど意識してなかった様です。


『さよならエマニエル夫人』が1977年12月24日より公開されます。シリーズ完結篇として製作された(後に続篇が製作されシリーズが復活します……)作品で、これで日本ではシリーズ3作が共に正月映画として公開された事になりました。配給は日本ヘラルド映画ではなく、コロムビア映画に替わっています。

『さよならエマニエル夫人』には「一般制限付きR 中学生以下の方見れません」とハッキリ表示がしてあります。『エマニエル夫人』シリーズは、日本の映倫が定めるレイティングの変化と共に在りました。

地方都市では、イギリスのエロティック・コメディ映画『ドッキリ・ボーイ』シリーズ第3作の『教習所どッキリ・レッスン』が併映。
「鮮烈華麗なエロチシズム!初笑い大爆笑と共に新春を飾る!」……これが、この2本立てのキャッチコピーです。前二作の様な女性の観客動員を意識した編成とは思えず、時代を席巻したシリーズの終焉を感じさせます。

名古屋市ではシリーズ第1作が上映された「メトロ劇場」1館での公開となっています。

その後、シルビア・クリステルは1984年に製作されたシリーズ第4作『エマニュエル』には、プロローグ場面に出演。
更に1991年にはTVドラマ・シリーズ『エマニュエル ザ・ハード』に主演。(共演が2代目007のジョージ・レーゼンビー)
更に更に1993年にはシリーズ第4〜6作を無かった事にした?(シリーズ第5〜6作にはシルビア・クリステルは未出演)シリーズ第7作、『エマニエル パリの熱い夜』に主演。エロティックな場面は若手女優に任せていますが、シルビア・クリステルは約20年にわたってエマニエルを演じた事になります。
シルビア・クリステル自身は、インタビューでは『エマニエル夫人』をあまり高く評価していない様でしたが、それでもエマニエルは彼女にとって最大の当り役になりました。


『エマニエル夫人』
EMMANUELLE
1974年 フランス
【出演】
シルビア・クリステル
アラン・キュニー
クリスティーヌ・ボワッソン
マリカ・グリーン
ダニエル・サーキイ
ジャンヌ・コルタン
ガブリエル・ブリタン
ロマン・ミクマンデ
【監督】
ジュスト・ジャカン
【音楽】
ピエール・バシュレ
【製作】
イブ・ルッセ=ルアール

『続 エマニエル夫人』
EMMANUELLE L'ANTI VIERGE
1975年 フランス
【出演】
シルビア・クリステル
ウンベルト・オルシーニ
カトリーヌ・リヴェ
カロライン・ローレンス
フレデリック・ラグーシュ
ラウラ・ジェムサー
ヴェナンチーノ・ヴェナンチーニ
トム・クラーク
【監督】
フランシス・ジャコベッティ
【音楽】
フランシス・レイ
【製作】
イヴ・ルッセ=ルアール
アラン・シリツキー

『さよならエマニエル夫人』
GOOD-BYE , EMMANUELLE
【出演】
シルビア・クリステル
ウンベルト・オルシーニ
アレクサンドラ・スチュワルト
ジャン=ピエール・ブーヴェ
ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ
オルガ・ジョルジュ=ピコ
シャルロット・アレクサンドラ
カロライン・ローレンス
【監督】
フランソワ・ルテリエ
【音楽】
セルジュ・ゲンズブール
【製作】
イヴ=ルッセ・ルアール