本日2023年12月16日と明日12月17日、東京の「ヒューマントラストシネマ渋谷」で『第1回東京国際叶井俊太郎映画祭』が開催されます。


余談ですが、以前に東京へ仕事に行った際、仕事終わりで「ヒューマントラストシネマ渋谷」に「ワールド・エクストリーム・シネマ2016」という企画で上映された『隻眼の虎』を見に行ったのですが、ここはビルのエスカレーターとエレベーターを乗り継がないと辿り着けない、一見さん泣かせの劇場でした。(笑)


閑話休題。

叶井俊太郎さんと言えば、映画配給を手掛け、映画のプロデュースを手掛け、コラムニストである方。雑誌「映画秘宝」やTV「タモリ倶楽部」等を通じて、映画ファンなら知る人ぞ知る存在。

現在の叶井俊太郎さんと言えば……今回の映画祭のチラシに以下の様に紹介されています。



余命半年の宣告から1年半!!

末期ガンをもあざ笑う

世界一やんちゃなステージ4、

連日ネットニュースを賑わし、

対談集「エンドロール」も話題の

前代未聞にして

類稀なる映画人の

驚愕の全貌!



因みに、対談集「エンドロール」ですが、先日書店に行き探したのですが“映画コーナー”には無く、店内の端末で検索したところ、“闘病・介護コーナー”に在りました。内容は叶井俊太郎さんと鈴木敏夫さんを始めとする15名の映画人、文化人との対談なのですが……


今回の映画祭で上映されるのは、以下の4作品。

『屋敷女/ノーカット完全版』

『日本以外全部沈没』

『キラーカブトガニ』

『ムカデ人間2/カラー版』


これまで叶井俊太郎さんが配給或いは製作を手掛けた作品といえば……


『八仙飯店之人肉饅頭』『ネクロマンティック』に代表されるグロテスクな残酷映画……


『クイーン・コング』『えびボクサー』に代表される脱力系映画……


『いかレスラー』『日本以外全部沈没』に代表される河崎実監督作品……


ホラー映画でありながら、後に大阪の「東梅田ローズ劇場」でも続映された『キラーコンドーム』……


東京での公開初日と2日目の観客動員がゼロだったと言われる『アシュラ』……


ロングランの大ヒットを記録、単館公開から全国拡大公開となり、社会現象になった『アメリ』……等、東西の洋を問わず実に多彩です。


あの、ジー・オー・グループ(ジー・コスモス)が製作した『ブレイズ・オブ・ザ・サン』が海外のフィルム・マーケットでセールスされているのを知り、買付けを検討した事もあったそうです。(倫理的理由で断念) 


そんな作品群の中から、2001年に日本で劇場公開された2本の映画について、少しだけ記します。


『クイーン・コング』

1976年、イタリア出身のプロデューサーであるディノ・デ・ラウレンティスは巨額の製作費をつぎ込み、ジョン・ギラーミン監督を起用し『キングコング』のリメイクを手掛けます。

オリジナルの『キング・コング』は1933年にRKO映画が製作した古典的傑作。リメイクに関しては、ユニバーサル映画との著作権の優先を争っての裁判を経て、ようやくにしてラウレンティスが映画化に漕ぎ着けた作品でした。

その『キングコング』に便乗し、英/伊/西独/仏の合作という形で製作されたのが『クイーン・コング』です。


ラウレンティスは激怒します。ユニバーサル映画との裁判もあった事から『キングコング』の権利に関してラウレンティスは神経質になっていました。(香港のショウ・ブラザース社が、東南アジア地区限定で『キングコング』の翻案作品を製作する許可を求めてきましたが、ラウレンティスは一蹴しています。そこでショウ・ブラザース社は独自に『北京原人の逆襲』を製作します)


1976年12月に、西ドイツで『クイーン・コング』が公開された事を知ったラウレンティスは、裁判所に“『クイーン・コング』は『キングコング』の著作権を侵害している”と訴えます。その為、『クイーン・コング』は一時的に封印されます。しかし裁判では“『クイーン・コング』は『キングコング』の著作権を侵害していない”との判決が下されます。

これで大手を振って『クイーン・コング』は世界中で公開される……かと思われたのですが、その矢先『クイーン・コング』のネガフィルムを預けてあったラボが倒産。どさくさに紛れて、そのネガフィルムが行方不明になってしまいました。こうして『クイーン・コング』の封印は解かれる機会を失いました。


『クイーン・コング』の存在は1977年頃に、日本の雑誌で紹介された事があった様です。雑誌名は不明ですが、当時の私の友人が当該の記事を読んだらしく、「『キングコング』の次は『クイーン・コング』が公開される」と教えてくれた事がありました。


時は流れて……2000年に、当時はアルバトロス・フィルムのバイヤーだった叶井俊太郎さんが、海外のフィルム・マーケットを訪れた際に、偶然『クイーン・コング』のネガフィルムの所在を知ります。叶井さんは早速『クイーン・コング』の権利所有者に連絡を取りネガフィルムの存在を伝え、買い戻す様に勧めます。その上で日本での配給権を取得し、2001年に劇場公開に至った訳です。25年の時を経て封印が解かれる時が来たのでした。


しかし叶井さんは『クイーン・コング』を見て愕然としていました。25年前の低予算で製作されたパロディ映画は、正直「幻の作品」という事以外にセールス・ポイントが無かったのです。そこで逆転の発想、広川太一郎さんと小原乃梨子さんを主演に起用した“超訳日本語版”を製作し、TVの洋画劇場を見る感覚で楽しんで貰うというスタイルでの公開に踏み切ったのです。

(当時、出版界の一部では“超訳”が流行していました。海外の小説を複数のアルバイト学生が日本語に直訳し、それを編集長が独自に纏める……なんて事が行われ、“超訳”という単語は“トンデモ日本語訳”と同義語に捉える向きがありました)


2001年9月22日、『クイーン・コング』は日本で劇場公開されました。東京では渋谷の「シネクイント」での上映。文化、流行の発信地として知られた渋谷の劇場での公開は、相応のヒットを期待されたものでした。

私の地元、名古屋では1週間遅れて2001年9月29日から「ヘラルド・シネプラザ50」で上映。劇場売店ではクイーン・コングのフィギュアやTシャツを筆頭とした大量のグッズが並び、クイーン・コングの体毛をイメージした装丁のパンフレットが販売されていました。

しかし……興行的には大コケ。幾ら付加価値を付けて工夫を凝らしても、作品のクオリティの低さは如何ともし難く、叶井さんをして「封印を解かず、幻にしておくべきだった」と言わしめる結果となりました。


『アメリ』
叶井俊太郎さんは、海外の某フィルム・マーケットで『デリカテッセン』『ロスト・チャイルド』『エイリアン4』のジャン=ピエール・ジュネ監督の新作の配給権買付けの交渉をしていました。
映画自体はまだ撮影しておらず、企画、脚本の段階でのビジネスでした。
脚本に目を通した叶井さんは『デリカテッセン』『ロスト・チャイルド』『エイリアン4』のダークな印象もあり、「これは妄想を拗らせたアメリという女性が主人公のサイコ・ホラー作品に違いない。お化け屋敷の場面もあるし……」と思い込んでいました。
叶井さんはアルバトロス・フィルムの上司に報告します、「この“ホラー映画”はウチで買い付けるべきです」と……

一方、他の日本の配給会社のバイヤーは「アルバトロスの叶井氏が交渉しているという事は、ヤバい映画に違いない。ジャン=ピエール・ジュネ監督作品だしなぁ……」と、スルーしていました。何せ叶井さんは、ドイツに於いて裁判所命令でフィルムの廃棄処分が命ぜられた映画『ネクロマンティック』(監督が秘匿していた私物のフィルム)を買い付けた事で、海外のフィルム・マーケットのバイヤー間では有名人となっており、グロテスクなホラー映画や残酷映画のバイヤーが叶井さんを見つけると「ヘイ、カナイ。ユー向けの映画が有るぜ」と売り込んでくる位だったからです。

商売敵の不在状態で、あっさりとジャン=ピエール・ジュネ監督作品『アメリ』の日本での配給権を買付けた叶井さん、映画が完成した際にフランスに招かれて作品を見たのですが愕然とします。「ホラー映画じゃない……」

アルバトロス・フィルム社内の試写では「聞いていたホラー映画じゃないけど……この映画、良いよね」との評判が高まり、やがてフランス本国でのヒットの様子も伝えられます。
2001年11月17日、『アメリ』の日本公開の日を迎えました。上映劇場は『クイーン・コング』が大コケした「シネクイント」に程近い「渋谷シネマライズ」。気になる観客は……スペイン坂から井の頭通りまで列が出来る程の大盛況ぶりでした。『アメリ』はフランスでの大ヒットを受け、既に日本国内でも女性向け雑誌等で特集記事が組まれ、多くの映画ファン要注目の作品になっていたのです。
東京公開での反響を受け、『アメリ』は地方都市でも順次公開されて行き、最終的には北海道の旭川から沖縄県の那覇まで全国各地で上映という、ミニシアター系の映画としては異例の大ヒットとなりました。

私の地元、名古屋では『アメリ』は東京公開から遅れること約1ヶ月、2001年12月22日より「センチュリーシネマ」で公開されました。
『アメリ』大ヒットの後、叶井俊太郎さんは一躍時の人となり、自身の映画バイヤーとしての経験を元に執筆した書籍『ビッグヒットは五感でつかめ!』を発表、更に2003年にはフジテレビの月9ドラマ『東京ラブ・シネマ』のモデルになるなど、映画バイヤーの枠を越えた活躍ぶりを見せました。
一方で、叶井さんは海外のフィルム・マーケットで、とある映画を探していました。(御自身がコラムに記していました)それは「メアリ」という名前の女性が主人公の映画です。そうです、自身が買付け大ヒットさせた『アメリ』に便乗して『メアリ』という映画を公開する為に……残念ながら?未遂に終わりました。(笑)


『クイーン・コング』
QUEEN KONG
1976年 
イギリス/イタリア/西ドイツ/フランス
【出演】
ロビン・アスクイズ
ルーラ・レンスカ
キャロル・ドリンクウォーター
リンダ・ヘイドン
ヴァレリ・レオン
ロジャー・ハモンド
バーバラ・アレン
スージー・アーサー
ジョン・クライブ
ブライアン・ゴドフレイ
【監督】
フランク・アグラマ
【製作】
ヴィルグリオ・デ・ブラシ


『アメリ』
LE FABULEUX DESTIN D'AMELIE POULAIN
2001年 フランス
【出演】
オドレイ・トトゥ
マチュー・カソヴィッツ
セルジュ・メルラン
ヨランド・モロー
ジャメル・ドゥブーズ
イザベル・ナンティ
ドミニク・ピノン
ミシェル・ロンバイ
クロティルド・モレ
アルチュス・デ・パンゲルン
【監督】
ジャン=ピエール・ジュネ
【製作】
クローディー・オーサル


再び余談ですが……
叶井俊太郎さんが買付け、東京では公開初日と2日目の観客動員がゼロだったと言われるインド映画『アシュラ』ですが、その様な状況にあったにも関わらず名古屋では、2000年7月1日の東京公開から遅れること約2ヶ月、2000年9月2日から9月15日のスケジュールで「ピカデリー3」に於いて公開されました。劇場では、あのVHSのケースの形をしたパンフレット(中身の殆どがメモ用紙)も販売されていました。

2000年9月2日

2000年9月15日