1998年、ローランド・エメリッヒ監督によるハリウッド映画『ゴジラ GODZILLA』が公開されましたが、その年の内に日本で『ゴジラ2000 ミレニアム』の企画が立てられました。

同様?に2014年、ゴジラ誕生60周年の年にギャレス・エドワーズ監督によるハリウッド映画『GODZILLA ゴジラ』が公開されると、同年末に日本で『ゴジラ』新作の企画が立てられました。


この時点では、この2016年公開予定の『ゴジラ』新作の監督名は公表されていませんでした。ファンが予想した監督は3名。


『ALWAYS 続・三丁目の夕日』でゴジラを登場させた山崎貴 監督。


「平成ガメラ3部作」の特技監督であり、『ローレライ』で監督に進出された樋口真嗣 監督。


『ウルトラマンギンガS』の田口清隆 監督の大抜擢。


そして……御存知の様に『ゴジラ』新作は、樋口真嗣 監督、庵野秀明 脚本&総監督による『シン・ゴジラ』として製作されました。


個人的にはハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』が公開された事もあり、「“樋口真嗣 監督/庵野秀明 脚本”くらい思い切った起用が必要では?」等と思っていたので、実際にその通りになったので驚いた記憶があります。

当時、庵野秀明総監督は『シン・エヴァンゲリオン 劇場版:||』を当初の予定から大幅に遅れて鋭意製作中でしたので、私はエヴァンゲリオン・ファンの知人を「これで『シン・エヴァンゲリオン 劇場版:||』の公開は更に遅れて、2018年以降になる」と言って誂っていました。(笑)


2016年7月29日に公開された『シン・ゴジラ』は興行的に大ヒットし、更に作品の評価も非常に高いものになりました。


〈第40回 日本アカデミー賞〉

作品賞

『シン・ゴジラ』

アニメーション作品賞

『この世界の片隅で』


〈第90回 キネマ旬報ベスト・テン 邦画〉

1位

『この世界の片隅で』

2位

『シン・ゴジラ』


〈2017年発表 映画秘宝ベスト10〉

1位

『シン・ゴジラ』

2位

『この世界の片隅に』


其々異なる3つの映画賞の結果が、ここまで一致したのは後にも先にも、この年だけでしょう。


『シン・ゴジラ』で驚かされたのは、昭和29年のゴジラ出現が無かった世界を舞台にしていた、つまり2016年の現代日本に初めてゴジラが現れた世界が描かれていた事です。

それまではハリウッド版と1969年の『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』を除けば、昭和29年の日本にゴジラが出現した世界=原点を踏まえた作品世界で物語が描かれていました。(『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』は、少年の空想の中にだけ怪獣が存在する世界が舞台。ミニラは今風に言えば少年のイマジナリーフレンドとして描かれていました)


『シン・ゴジラ』は敢えて原点を踏まえる事は無く、現代日本に出現したゴジラは当然ながら「戦争」や「核兵器」の象徴ではなく、「現代日本の存亡に関わる脅威」として描かれています。そして「国防」「国際社会に於ける日本」という要素が物語の背景に盛り込まれています。

加えて、阪神淡路大震災、東日本大震災という2つの大震災を経験した日本と日本人の姿が物語に反映されています。


これは想像ですが、庵野秀明総監督は1984年版の『ゴジラ』を鑑賞した際、「あそこをこうすれば良いのに」という感想を抱いた1人だったのではないでしょうか。そして御自身が『ゴジラ』を演出する機会を得た時、1つの表現として1984年版『ゴジラ』では充分に描き切れなかったポリティカル・フィクションの要素を(ウェットな描写を排除して)徹底させたのではないかと思います。

昭和29年の『ゴジラ』の続篇ではなく、原点の再構築を手掛ける事に対し、自身のやりたい事が明確であったのです。故に樋口真嗣監督を押し退ける?形にもなった訳でしょう。


『シン・ゴジラ』最大の見せ場は、当然ですがクライマックスの攻防戦です。

あの場面、ゴジラに対して使用される武器として最初から兵器であったものは、ドローン攻撃機、イージス艦から発射されるミサイル……全て米軍が提供したものです。

日本は、新幹線や在来線車両に爆弾を搭載してぶつける、超高層ビルを倒壊させぶつける……等、兵器ではないもの、日本の鉄道技術や建築技術の粋を集めて建造されたものを、武器に転用してゴジラに戦いを挑んでいます。ゴジラに血液凝固剤を飲ませる為に使用する車両も自衛隊の配備車両ではなく、ビルの建築現場等で使用されるポンプ車です。働く自動車です。


そして作戦名が「ヤシオリ作戦」です。劇中で「ヤシオリ」の意味について全く説明しないのは、如何にも庵野秀明総監督らしい演出です。庵野総監督からすれば「日本神話の八岐大蛇の件くらい知っているでしょう」という事なのかもしれませんし、「怪獣映画が好きな人なら『日本誕生』『わんぱく王子の大蛇退治』は必修科目」という事だったのかもしれません。(笑)

更に言えば「仮に知らなくてもストーリーを追いかけるのに困りはしない」という事でもあったのでしょう、多分。


そして何より、このヤシオリ作戦は日本とゴジラの戦いを、神話の時代の須佐之男と八岐大蛇の戦いに擬えている……或いは神話の力を借りて=神の力をも借りて戦う、正に日本の総力戦を描写しているのではないかと思えます。(上述のポンプ車の通信名が“アメノハバキリ”……)


加えて、ヤシオリ作戦遂行中の最中、里見総理はフランスの核攻撃を阻止する為に、大使にひたすら頭を下げ続けているという、1973年版『日本沈没』の山本総理の「1人だっていい」にも通じる姿勢を見せており……(もしかしたら、劇中で一番ウェットな描写かもしれません)


キャッチコピーの「現実 対 虚構/ニッポン対ゴジラ」が、其処に在りました。


ところで……『シン・ゴジラ:オルソ』。前回の様な限定上映ではなく、1週間でも良いので通常興行で再上映してくれないものでしょうか。それが叶わないのなら……ソフト化は期待して良いですよね?



『シン・ゴジラ』

2016年 日本

東宝映画/シネバザール

【出演】

長谷川博己

石原さとみ

竹野内豊

大杉漣

平泉成

余貴美子

國村隼

高良健吾

市川実日子

柄本明

【監督/特技監督】

樋口真嗣

【総監督/脚本】

庵野秀明