映画『リボルバー・リリー』を鑑賞、気が付いたことを少し記しておきます。公開中の作品ですので、詳細は記しません。



① キャスト

出演者の顔触れが豪華と言うか、贅沢な起用です。主要キャストはもとより、脇を固める役者がそれぞれに主役クラスの方々です。

どれくらい贅沢かと言うと……プロローグの野村萬斎さんから始まり、エピローグの鈴木亮平さんで締め括られる……という位のスケールです。


個人的に驚いたのが、緑魔子さんの出演。緑魔子さんは現役の女優ですから出演されていても不思議ではないのですが、単純に私が劇場のスクリーンで緑魔子さんを見るのが久し振りだったものですから……

私が緑魔子さんの出演映画で非常に印象的だったのは……『盲獣』(1969) 『喜劇 女は男のふるさとヨ』(1971) 『日本妖怪伝 サトリ』(1973)……等、1960年代末から1970年代にかけての作品が多いです。『日本一の断絶男』(1969)は「植木等さん主演の東宝クレージー作品のヒロインが緑魔子さん!」と、結構驚いたものです。

『リボルバー・リリー』には御亭主の石橋蓮司さんも出演されています。



② 煙草

最近では映画の中の喫煙シーンは少なくなってきています。法律で禁止されている訳ではないのですが、コンプライアンスという込み入った事情が絡んでいます。アメリカ映画ですと、喫煙シーンがあるのと無いのとではレイティングにも影響を与える様です。


そう言えば……以前は劇場で、映画本篇上映前の幕間に煙草のCMが流れたものです。特に「ラーク」「ラッキーストライク」「パーラメント」のCMは、ハリウッド映画のワンシーンを切り抜いた様な映像と音楽で、煙草を全く吸わない私でも「CMだけは別」なんて思わせてくれました。


さて、『リボルバー・リリー』では喫煙シーンはバンバン出てきます。『風立ちぬ』(2013)に負けない位……(笑)


演技の話として、役者が手持ち無沙汰になると監督が煙草を吸わせる……という事がありました。件の役者が未熟で“何もしていない演技”が出来なくて、“本当に何もしていない”と芝居が成立しないので、「煙草でも持たせておけ」となる事が多々あった訳です。大根役者ほど喫煙シーンが多かった……?


しかし、現在は少々事情が異なっています。『風立ちぬ』なら大正〜昭和、『リボルバー・リリー』なら大正、そこら中で大人がスパスパと平気で煙草を吸っていた、吸えていた“時代”を表現する為に、喫煙シーンを描いているのです。



③ 陸軍悪玉 海軍善玉

映画では、何故か大日本帝国時代の軍部は、陸軍が悪玉で海軍が善玉として描かれる事が多い様に思えます。

東宝『暁の脱走』『独立愚連隊』 松竹『二等兵物語』『拝啓天皇陛下様』 大映『兵隊やくざ』 東映『陸軍残虐物語』……理不尽な組織としての陸軍、理不尽な陸軍軍人が登場する映画のタイトルはスラスラ出て来ます。コミックス『はいからさんが通る』でも因念陸軍中佐が出てきましたし……(東映『海軍横須賀刑務所』なる作品もありますが……)

『リボルバー・リリー』でも同様の描写です。


現実に於いても「陸軍=暴走」の文脈で語られる事が多いようです。「陸軍悪玉論/海軍善玉論」なるものも存在します。徴兵制と志願制の違い、憲兵の存在、「ニ・ニ六事件」の影響もあるのでしょうが、実際にはそう単純なものだった訳ではありません。


しかし『リボルバー・リリー』はフィクションであり、あくまでエンターテイメント作品です。故に物語の構成上、陸軍は徹底的に悪辣に、海軍は若き日の山本五十六を登場させる事で(比較的)信用出来る存在として描かれています。(あくまでも“比較的”です)


ところで……大河内傳次郎さん、三船敏郎さん、山村聡さん、小林桂樹さん、マコ岩松さん、役所広司さん、舘ひろしさん、豊川悦司さん、阿部サダヲさんが、同一人物を演じていると言うのは、中々スゴイ話だと思います。



④ グロリア

『リボルバー・リリー』に大きな影響を与えていると思われるのが、1980年のアメリカ映画『グロリア』です。ジーナ・ローランズ主演、ジョン・カサヴェテス監督/脚本の作品。


粗筋は……かつて情婦だったグロリアは、行き掛かりで組織から狙われる6歳の少年フィルを匿う事になる。組織の会計係だったフィルの父親ジャックは組織の金を横領、更にFBIにも通じていた。ジャックは殺害されてしまうが、組織の資金の流れを記した手帳をフィルに託していたのだった。そして組織のボスであるトニーこそが、かつてのグロリアを囲っていた男だった。フィルを連れて逃亡するグロリアは、ニューヨークを舞台に、かつての仲間に戦いを挑む事になる……というもの。


この粗筋自体が既に『リボルバー・リリー』の原点と言っても差し支え無いと思いますが、更に逃亡と戦いの中で、グロリアとフィルが疑似家族、疑似母子の関係になっていく件や、ハイヒールを履き、エマニュエル・ウンガロの洋服を纏い、豪快に拳銃をぶっ放すグロリアの姿など、『グロリア』と『リボルバー・リリー』が重なる要素は多々あります。

『グロリア』は『レオン』(1994)にも多大な影響を与え、1999年にはシャロン・ストーン主演でリメイクもされています。



『リボルバー・リリー』

2023年 日本

【出演】

綾瀬はるか

長谷川博己

羽村仁成

シシド・カフカ

古川琴音

清水尋也

佐藤二朗

阿部サダヲ

板尾創路

豊川悦司

【監督】

行定勲


『グロリア』

GLORIA

1980年 アメリカ

【出演】

ジーナ・ローランズ

ジョン・アダムス

バック・ヘンリー

ジュリー・カーメン

トム・ヌーナン

ゲイリー・ハワード・クラー

J・C・クイン

ソニー・ランダム

レイ・ベイカー

サントス・モラレス

【監督】

ジョン・カサヴェテス