「第四次世界大戦は5日間続いた。世界各国の政治家は都市の荒廃という問題を解決する事が出来た」という皮肉の利いた一文から始まるのが、映画『少年と犬』です。


西暦2024年。文明が崩壊した地球。一人の少年と、テレパシーで少年と会話を交わす一匹の犬が旅をしている。少年は性欲を、犬は食欲を抑えながら……


この映画の製作は1975年。この頃は『最後の脱出』『地球最後の男 オメガマン』『未来惑星ザルドス』『SF 最後の巨人』等、終末世界を舞台にしたSF映画が流行していました。(意外な事に、シリーズ1&2作で人類の終末を描いた『猿の惑星』シリーズが、1973年公開のシリーズ5作『最後の猿の惑星』では、その終末を回避できる希望を描いていました……)


1980年代になると『ニューヨーク1997』『マッドマックス2』等を切欠に、近未来SF映画として1つのジャンルが形成された感がありますが、その先駆けともなった作品群であり、『少年と犬』もその作品群に名を連ねる1本です。


『少年と犬』は、日本ではリアルタイムでは劇場公開されず……


1986年  5月21日 バップよりVHS発売

2005年11月26日 紀伊國屋書店よりDVD発売

2008年  3月   7日 フォワードよりDVD発売

2009年10月31日 紀伊國屋書店よりDVD再発売


……といった具合にソフトスルーされ、謂わば知る人ぞ知る作品でした。


主演は、後にTVドラマシリーズ『特捜刑事マイアミ・バイス』『刑事ナッシュ・ブリッジス』等で人気を得るドン・ジョンソン。

監督は、サム・ペキンパー監督作品で御馴染みの俳優L・Q・ジョーンズ。

原作は、『世界の中心で愛を叫んだけもの』等で知られるハーラン・エリスンの小説。この原作小説は1969年度のネビュラ賞(中長篇小説)を受賞しています。


映画化された『少年と犬』は1976年度のヒューゴー賞(映像部門)を受賞しています。


終末を迎えた世界、人と会話する犬……余談になりますが、女子高生の「ご主人」と柴犬の「ハルさん」を主人公にしたコミックス『世界の終わりに柴犬と』(石原雄 作画)の原点は、或いは『少年と犬』にあった……のかもしれません。


映画『少年と犬』は、ラストシーンが衝撃的なのですが……正直に申しますと、表面的にはノンビリした描写なので、そこで何が起きていたのか理解するまでに間が空いてしまいました。


さて……名古屋市で『少年と犬』を上映しているのは、老舗のミニシアター「名古屋シネマテーク」ですが、非常に残念な事に今年7月28日をもって同館は閉館する事になってしまいました。








「名古屋シネマテーク」の開館は1982年6月27日。上述の様に名古屋市ではミニシアターの先駆けとなった劇場です。

理由は定かではないのですが、開館してから暫くは新聞の“映画 演劇 案内”に「名古屋シネマテーク」の情報は掲載されず、開館してから3ヶ月程経った1982年10月1日から情報が掲載される様になりました。
ただし、1982年10月1日はタイミングの悪い事に「名古屋シネマテーク」は休館日だったという……

1982年9月30日

1982年10月1日

1982年10月2日

私が初めて「名古屋シネマテーク」を訪れたのは1985年8月。デヴィッド・クローネンバーグ監督作品『ヴィデオドローム』を見る為でした。

当時の「名古屋シネマテーク」では、入替え無しの2本立て上映をする事も多く、『ヴィデオドローム』は1985年8月8日㈭から『ブレードランナー』と2本立て、1985年8月15日㈭から『アルタード・ステーツ 未知への挑戦』と2本立てで上映されています。

1985年8月8日

1985年8月15日

私は、『ブレードランナー』は既に劇場で見ていたので、『ヴィデオドローム』『アルタード・ステーツ 未知への挑戦』の2本立てを鑑賞しています。上映順は『アルタード・ステーツ 未知への挑戦』が先でしたので、私が「名古屋シネマテーク」で最初に鑑賞したのは、ケン・ラッセル監督作品だった訳です。
入替えで朝9時30分から上映されていた“戸川純映画”というのは何だったか……もしかすると『パラダイスビュー』?
(1982年は成人映画を上映していた「今池アカデミー」が、1985年は「ラピュタ阿佐ヶ谷」の様な番組編成をしていた事にも注目。「今池国際/国際シネマ」の“毎晩 残酷映画 レイトショウ”も目を引きます。改めて調べた処、「国際シネマ」で8月10日から8月29日の日程で、4日間ごとの作品入れ替わりで、ホラー映画の2本立て、合計10本の作品の上映を行っていた様です)


『少年と犬』は西暦2024年が舞台ですが、「名古屋シネマテーク」は西暦2024年を迎える事なく終幕となります。



『少年と犬』

A BOY AND HIS DOG

1975年 アメリカ

【出演】

ドン・ジョンソン

スザンヌ・ベントン

ジェイソン・ロバーズ

アルヴィ・ムーア

ヘレン・ウィンストン

チャールズ・マックグロー

ハル・ベイラー

ロン・ファインバーグ

マイケル・ルパート

ティム・マッキンタイア(声)

【監督】

L・Q・ジョーンズ

【原作】

ハーラン・エリスン