『レガシー』の併映となった『エーゲ海に捧ぐ』は、第77回芥川賞を受賞した池田満寿夫さんの同名小説に、やはり池田さんの小説『テーブルの下の婚礼』を加えて映画化した作品。池田満寿夫さん自身が脚本・監督を務めています。

原作では日本人の主人公を、映画ではギリシャ人に変更。舞台もロサンゼルスからローマへと移り、出演者もイタリア人俳優となっており、更に音楽をエンニオ・モリコーネが担当する等、和製洋画の趣きとなっています。

更にこの年のカンヌ国際映画祭に『エーゲ海に捧ぐ』は出品されています。


この作品にはワコールが出資をしていた為、主演のイロナ・スターラ(後のチッチョリーナ)が当時のワコールのテレビCMに出演していました。BGMがジュディ・オングさんの歌う「魅せられて」で、このCMを切欠に曲が大ヒットし、レコード大賞を受賞するに至ります。


『エーゲ海に捧ぐ』は、確かに性愛的な描写のある内容ですが、映画自体は一般映画として製作されており、鑑賞に際して成人指定は設けられていませんでした。(後にテレビ放映もされています)

しかし例によって?一部のスポーツ新聞や週刊誌は、映倫が映像の一部に修整を求めた事を強調して報道、その為に多くの人が『エーゲ海に捧ぐ』をエロティック大作だと思い込んだのです。

とは言うものの、上述の様に鑑賞に際して成人指定はありませんでしたから、世の中高生男子(に限らず成年男子も)が「『レガシー』を観に行くんだ」と言い訳をして『エーゲ海に捧ぐ』を観る事が出来たのです。(笑)


洋ピン専門館からすれば、普段の常連客に加え、スポーツ新聞や週刊誌の記事でイメージを植え付けられた一般客、そして未成年の観客動員も見込めるのですから、積極的に上映する訳です。


『レガシー』『エーゲ海に捧ぐ』公開から3年の月日が流れたある日。当時学生だった私に、それまで付き合いの乏かったクラスメートが声をかけてきました。「『ヘルナイト』って言う映画は、何処の映画館で上映しているか教えてくれ」との事。

映画ファンではない筈の彼が『スター・ウォーズ』や角川映画やジャッキー・チェン主演作やアイドル主演作の類いなら兎も角、何故『ヘルナイト』を見たいのか?

理由はすぐ判りました。『ヘルナイト』の併映が『チャタレイ夫人の恋人』だったからです。


『レガシー』『エーゲ海に捧ぐ』の2本立てが好評だったのか、東宝東和は1982年にも似た印象の2本立て上映を行ったのです。そして、あの洋ピン専門館の「一宮菊映」も当然の如く『ヘルナイト』『チャタレイ夫人の恋人』をロードショー公開しています。(名古屋市では「中日シネラマ劇場」「名宝スカラ座」で公開)


『ヘルナイト』は東京など大都市圏では1982年5月15日、地方都市では1982年5月29日より劇場公開されました。


主演はリンダ・ブレア。あの『エクソシスト』で悪魔に取り憑かれた少女リーガンを演じた彼女です。

リンダ・ブレアが『エクソシスト』に出演したのは14歳の時。この時の演技でゴールデン・グローブ賞の助演女優賞を受賞、アカデミー助演女優賞にノミネートされています。(この年のアカデミー助演女優賞を受賞したのは『ペーパー・ムーン』のテイタム・オニールで、当時彼女は10歳。2人の子役がハリウッドを席巻したのです)

しかし『エクソシスト』での演技があまりにも強烈な印象を残した事で、その後はキャリアアップが上手くいかず、(『エクソシスト2』やTV映画『戦慄の夏』の出演がありましたが)1981年に『ヘルナイト』でホラー映画に帰って来ました。


『ヘルナイト』の粗筋は…新入生歓迎の恒例行事で、古い屋敷で一夜を明かす事になった4人の男女の前に、恐るべき殺人鬼が現れる……という、如何にも80年代らしいスラッシャームービーで、カルトな人気を誇っています。『エクソシスト』『エクソシスト2』に次ぐリンダ・ブレアの代表作と言っていいでしょう。(『ローラー・ブギ』の方が好みだと言うファンもいますが…)

日本公開時の惹句は「いま、映画で肝だめし」。


名古屋では公開に先駆け、5月22日深夜に中日シネラマ劇場にて「“ヘルナイト”肝だめし深夜興行!」と称し、『サスペリア』『夕暮れにベルが鳴る』『バーニング』『サンゲリア』『ヘルナイト』のオールナイト5本立て上映が行なわれています。正に(良い意味で)“地獄の夜”です。


『ヘルナイト』の日本公開時の広告にはイタリア映画との記載がありますが、この作品の製作はアメリカのコンパス・インターナショナル・ピクチャーズです。


同じ広告には「シトヘス恐怖映画祭・特別賞受賞」との記載があります。

「シトヘス恐怖映画祭」というのは「シッチェス・カタロニア国際映画祭」の事で、「特別賞受賞」というのは同映画祭で『ヘルナイト』の特殊効果チームが「国際批評家委員賞」を受賞した事だと思われます。

因みに主演のリンダ・ブレアは、この年のゴールデンラズベリー賞にノミネートされています。


そして併映の『チャタレイ夫人の恋人』です。

1928年にイギリスのD・H・ローレンスが発表した小説が原作ですが、この小説が世界各国で猥褻文書として発禁となり、日本でも翻訳版を巡って警察による摘発と裁判が起こされる等、世間を騒がせた事で知られています。

それでも、時代を経る事で文学として認められる様になりました。その3度目の映画化作品が本作。主演が『エマニエル夫人』のシルビア・クリステルであり、この作品も鑑賞に於いては成人指定では無かった事から、再び世の中高生男子(に限らず成年男子も)がボルテージを上げる事になった……訳です。


「『ヘルナイト』を観に行くんだ」……歴史が繰り返されたのでした。



『ヘルナイト』

HELL NIGHT

1981年 アメリカ

【出演】

リンダ・ブレア

ビンセント・バン・パタン

ピーター・バートン

ケビン・ブロディ

ジェニー・ニューマン

スキー・グッドマン

ジミー・スターテバント

ハル・ラルストン

キャリー・フォックス

ロナルド・ガンズ

【監督】

トム・デ・シモーネ


『エーゲ海に捧ぐ』

DEDICATO AL MARE EGEO

1979年 日本/イタリア

【出演】

イロナ・スターラ

クラウディオ・アリオッティ

サンドラ・ドブリ

オルガ・カルラトス

ステファニア・カッシーニ

マリア・ダレッサンドロ

ステファノ・ローラ

ラウラ・タンツィアーニ

アンナ・ジンネマン

【監督】【脚本】【原作】

池田満寿夫

【音楽】

エンニオ・モリコーネ


『チャタレイ夫人の恋人』

LADY CHATTERAY'S LOVER

1981年 イギリス/フランス

【出演】

シルビア・クリステル

ニコラス・クレイ

シェーン・ブライアント

ペッシー・ラブ

アン・ミッチェル

エリザベス・スプリッグス

パスカル・リボー

ピーター・ベネット

アンソニー・ベット

ジョン・タイナン

【監督】

ジュスト・ジャカン

【原作】

D・H・ローレンス