名古屋市の老舗プロモーション「ジェイルハウス」の創業者の春日井淳治さんが、1968年頃に愛知県一宮市でロック喫茶「文文」を開店されます。その後「文文」は名古屋市昭和区に移るのですが、一宮市の跡地には後を引き継ぐ形で、MFLの もやしさんが「テイクオフ」という名のロック喫茶を開店。このお店は1年程で閉店しますが、後に名曲?「金太の大冒険」で一世を風靡し、現在もラジオパーソナリティとして活躍中の、つボイノリオさんが改めて「スマートなトーマス」というお店を開店させます。


そのお店が入居していたビルには「一宮菊映」という映画館がありました。開館当初はどの様な映画を上映していたのかは不明なのですが、1970年代には洋ピン(洋画のピンク映画)の専門館になっていたと思われます。

それでも稀にブルース・リー主演映画の3本立て上映を行うなど、洋画の下番線劇場の一面もあった様です。


その「一宮菊映」で、1979年にロードショー公開されたホラー映画が『レガシー』(製作は1978年)です。(名古屋市では「名鉄東宝」「メトロ劇場」「今池劇場」で公開)


『レガシー』の主演はキャサリン・ロス。『卒業』のエレインです。『明日に向かって撃て!』のエッタです。

シャロン・ケリーやサンドラ・ジュリアンが映し出されていたと思しきスクリーンに、キャサリン・ロスも映し出されていた事を想像すると中々感慨深い?ものがあります。

共演は後にキャサリン・ロスと結婚するサム・エリオット。

監督は、後に『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』(『スター・ウォーズ ジェダイの帰還』)を手掛けるリチャード・マーカンドが務めています。


マーカンドは『レガシー』が初監督作品なのですが、実は当初は別人が監督する予定だったそうです。その人物が突然降板した事で、マーカンドに監督へのオファーが来たのです。

ところがマーカンドは『レガシー』の脚本を読んで「何だこりゃ、酷いな」と思ったそうです。

自分の晴れの初監督作品がこんな酷い脚本で良いのか……悩んだマーカンドは友人に相談しました。すると、その友人は言ったそうです、「その酷い脚本を少しでも良いモノにするのが監督の仕事だろう」と。


……正に真理です。マーカンドはその友人の言葉に押されて『レガシー』の監督を引き受けます。しかしクランクインが迫っており、充分な準備期間を取れなかったマーカンドからすれば、『レガシー』は不満の残る出来の作品となりました。


この後、マーカンドはケン・フォレットの小説の映画化作品『針の眼』を監督する機会を得ます。その『針の眼』のファイナル・カットを編集中にジョージ・ルーカスからの電話を受けます。ルーカス曰く「貴方の作品を見ました。是非貴方に『スター・ウォーズ』の第3作の監督を依頼したい」との事。


マーカンドは「おいおい。『レガシー』を見て『スター・ウォーズ』の新作を任せたいなんて言ってくるジョージ・ルーカスは、その程度の人か?」と思ったそうです。しかもルーカスは、マーカンドの手腕を褒めるのです。

そこでマーカンドは、恐る恐る「あの……『レガシー』の何処が良かったんですか?」とルーカスに訊ねました。


ルーカス「えっ、『レガシー』……?」


……実はルーカスは、マーカンドの新作『針の眼』のワークプリントを見ており、そこで連絡してきたとの事だったのです。

まだ劇場公開前の『針の眼』をルーカスが見ているとは思わなかったマーカンドの早とちりでした。


監督のリチャード・マーカンドが不満を持った『レガシー』の脚本は、3名のライターによって執筆されています。

1人は原作も兼ねているジミー・サングスター。テレンス・フィッシャー監督の『吸血鬼ドラキュラ』『フランケンシュタインの逆襲』の脚本も執筆しています。

残る2人は、『地獄のキャラバン隊』『オスロ国際空港 ダブル・ハイジャック』のポール・ホイーラーと、『嵐が丘』『続 恐竜の島』のパトリック・ティリーです。


『レガシー』は、日本では東宝東和の配給で、“全米を怯えさせた新しい戦慄!「ファンシー・ショッカー」に悲鳴が渦巻く!”の惹句で、1979年4月28日に公開されました。

特筆すべきは「サーカム・サウンド」で上映されていた事です。

「サーカム・サウンド」とは、日本ビクターと東宝東和が協力して開発した音響システムの事で、1975年日本公開(製作は1974年)の『デアボリカ』や1977年の『サスペリア』の日本公開時に使用された事で知られています。現在のマルチ・サウンドの先駆け的なシステムです。


さて……『レガシー』の粗筋は、ロンドン郊外の豪邸を舞台に、そこを訪れた招待客に次々と怪奇な事象が降り掛かる…というオーソドックスなオカルトであり、少なくとも上記の洋ピン専門館で上映されるタイプの作品ではありません。


では何故『レガシー』は洋ピン専門館で上映されたのか?……それは併映が『エーゲ海に捧ぐ』だったからです。



『レガシー』

THE LEGACY

THE LEGACY OF MAGGIE WALSH

1978年 イギリス/アメリカ

【出演】

キャサリン・ロス

サム・エリオット

ジョン・スタンディング

イアン・ホッグ

ロジャー・ダルトリー

ヒルデガード・ニール

マーガレット・タイザック

チャールズ・グレイ

リー・モンタギュー

マリアン・ブルーム

【監督】

リチャード・マーカンド

【脚本】

ジミー・サングスター

ポール・ホイーラー

パトリック・ティリー


「文文」「テイクオフ」「スマートなトーマス」「一宮菊映」が、かつて入居していたビルの現在。