1962年製作の『橫掃江南七覇天』(別題『大小黃天覇』)で映画初出演、昨年で俳優活動60年を迎えたジャッキー・チェン。最新作は昨年12月に中国で公開された(筈)の『龍馬精神』。

かつてスタントマンとして活躍した男が経済的理由で愛馬を手放さないといけない羽目になり、娘と娘の恋人に助けを求める……という、アクションはあるもののハートフルなコメディ演出に重きを置いた作品と言われています。


ジャッキー・チェンの60年の俳優活動の中には、企画が実現しなかった作品、出演が叶わなかった作品も数多くありますが、その中から10本+αを記しておきます。



『鬼手十八翻』

1978年頃の企画。この作品についてはいずれ改めて記そうと思います。

ロー・ウェイ監督、ジャッキー・チェン主演のクンフー映画。色々あって一部撮影は行われたものの製作中止になりました。

撮影済みのフィルムが日本では1986年に劇場公開された『ジャッキー・チェンの醒拳』に一部流用されています。



『醒拳』

1986年に日本で劇場公開された『ジャッキー・チェンの醒拳』とは別の企画です。

1979年にロー・ウェイ・カンパニーで製作する筈だったジャッキー・チェン主演&監督(予定)作品。

ジャッキー・チェンの映画会社移籍が絡んだゴタゴタがあり、ゴールデン・ハーベスト社の『ヤング・マスター 師弟出馬』と同時進行で撮影するとの事でしたが、スチール写真の撮影が行われただけで製作はされていません。このスチール写真の一部が『クレージーモンキー笑拳』のパンフレットに掲載されています。

後に起きた「ジャッキー・ジャック事件」や、1980年の「東映が“ジャッキー・チェンに会いに香港へ行こう”ツアーを行なったら、当のジャッキーが香港に不在だった件」の遠因ともなった企画です。



『THE TERRIBLE GAME』

ダン・タイラー・ムーア原作の小説の映画化。1982年頃に『バトルクリーク・ブロー』『キャノンボール』に続くアメリカ進出作品として、『プロテクター』と共に候補に挙がっていました。

(『プロテクター』は1985年にジェームズ・グリッケンハウス監督で製作されましたが、元々は本作品と共にロバート・クローズ監督で企画されていました)

この企画は没になった訳ではなく、1985年にロバート・クローズ監督によって『カラテNINJA ジムカタ』として製作されました。主演のカート・トーマスは1978年、1979年の世界体操競技選手権で金メダルを獲得、1980年のモスクワ五輪では幻のアメリカ代表となった体操選手で、劇中アクロバティックなアクションを披露します。その辺りにジャッキー・チェン主演企画としての名残りを感じます。



『ランボー 怒りの脱出』

1985年。シルベスター・スタローン主演の人気シリーズ第2作。ジョルジ・パン・コスマトス監督。

当初、ランボーに協力する現地人(ベトナム人?)の役にジャッキー・チェンを起用する案があった様です。

シルベスター・スタローンはその後も『エクスペンダブルズ』シリーズへの出演オファーをジャッキー・チェンにしていますが、実現には至っていません。



『西域雄獅』

1991年頃からの企画。監督候補に『天山回廊 ザ・シルクロード』のツイ・シウミンが挙がっていました。

アメリカに渡った中国人青年を主人公にした西部劇だった様で、日本の映画雑誌では『カウボーイ』或いは『ウェスタン・カウボーイ』のタイトルで紹介されていました。

当時のジャッキー・チェンは他に『ポリス・ストーリー3』『シティーハンター』『レッド・ブロンクス』『滅火群雄』と、幾つも企画を抱えており、他作品の製作を優先した為に自然消滅した様な形になった企画です。

1997年製作、リー・リンチェイ(ジェット・リー)主演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ&アメリカ 天地風雲』に対してジャッキー・チェンは「あの作品は僕の『西域雄獅』からアイディアを流用した」という旨の発言をしています。

後にジャッキー・チェンは2000年製作『シャンハイ・ヌーン』、2003年製作『シャンハイ・ナイト』に主演していますが、或いはこの2本の作品の原点は本企画だったのかもしれません。



『滅火群雄』

やはり1991年頃からの企画で、こちらもツイ・シウミンが監督候補に挙がっていました。

消防士を主人公にした香港版『バックドラフト』を意図した企画でした。

当時、東南アジア向けのCMでジャッキー・チェンを起用していた三菱自動車は、それが縁でジャッキー・チェン主演映画に車両提供をしており、本企画でも劇中で使用する消防車の提供をする予定でした。

ただ香港映画では前例の無い企画であり、火事場のセットを組むだけでも大変な困難が予想された為に、製作が見送りになりました。

1997年にジョニー・トー監督が『ファイヤーライン』を発表、内容が被るという事で更に製作のタイミングを失う形になりました。

ジャッキー・チェンは2013年に製作された映画で、消防士が主人公の『ファイアー・レスキュー』にカメオ出演をしています。

個人的には今でも、ジャッキー・チェン主演で消防士もしくはレスキュー隊員を描いた映画を見たいと思っているのですが……



『ストリートファイター』

1994年製作、スティーヴン・デ・スーザ監督、ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演作。

カプコンが開発した対戦型格闘ゲームの映画化作品。当初ジャッキー・チェンをフェイ・ロン役に起用する予定がありました。実現していれば東西2大アクション・スターの共演となったのですが、映画に併せ本作品の映像を使用した格闘ゲームの開発が予定されており、ジャッキー・チェンは既に別のゲームメーカーとキャラクター使用の契約を結んでいた事から、出演は実現しませんでした。

1993年公開の『シティーハンター』の劇中ではゲーム「ストリートファイターⅡ」のコスプレ場面があり、ジャッキー・チェンは春麗に扮しています。



『タイトル不詳』

1990年代後期。

ジャッキー・チェンのハリウッド主演作品で、ウェズリー・スナイプスとの共演が予定されていた企画です。

ウェズリー・スナイプスは「ジャッキー・チェンとの共演を楽しみにしている」という旨の発言をしており、実現していればやはり東西2大アクション・スターの共演となっていました。

どうやら企画内容が変更になり、1998年製作の『ラッシュアワー』(ブレット・ラトナー監督、クリス・タッカー共演)になった様です。



『NOSEBLEED』

2001年の企画。レニー・ハーリン監督。

ジャッキー・チェン演じる世界貿易センタービルの窓拭きの清掃員が、ビルを襲撃したテロリストと対峙する事になる…という内容の作品。

『ダイ・ハード』の様なシリアスなものでなく、コミカルタッチな作品を想定していた様で、実現していればハロルド・ロイドやバスター・キートン主演のサイレント映画のスタントを、21世紀に復活させた様な作品になっていたかもしれません。

当初の予定では2001年9月に世界貿易センタービルでのロケ撮影を行う筈だったという……

本企画は幻となりましたが、レニー・ハーリンとジャッキー・チェンは2016年に『スキップ・トレース』を製作しています。



『ピンクパンサー』

2006年。ショーン・レヴィ監督、スティーブ・マーチン主演作。

1963年の『ピンクの豹』に始まるピーター・セラーズ出演のシリーズのリブート作品。

オリジナルではバート・クウォークが演じた、主人公クルーゾー警部の召使いで弟子でもある東洋人ケイトー・フォン役にジャッキー・チェンを起用する予定がありました。

しかし2004年公開の『80デイズ』(1956年公開『八十日間世界一周』のリメイク)が興行的に上手くいかなかった事で、ジャッキー・チェンはリブート作品への出演を見合わせる様になり、オファーを断っています。

ジャッキー・チェンが演じるケイトー・フォンに代わり、ジャン・レノが演じるポントンが映画には登場します。



番外①

『PROJECT X-TRACTION』

2019年〜2022年?

スコット・ウォー監督。プロレスラーでもあるジョン・シナとの共演作。2017~2018年頃に企画が持ち上がった時はシルベスター・スタローンとの共演が想定されていました。

コロナ禍で撮影が中断している……と言われていましたが、IMDbによれば既に完成しているとの記載があります。それにも関わらず何故か公開ラインナップに挙がってきません。



番外②

『'89 格闘衛星☆闘強導夢』

1989年4月24日に新日本プロレスが開催した東京ドーム大会でジャッキー・チェンが、当時新日本プロレス所属であった船木優治(現 船木誠勝)選手とエキシビジョンで対戦する計画がありました。

映画ファンでもある船木選手は乗り気だったと言われていますが、この頃既にUWFへの移籍が持ち上がっていた事に加え、新日本プロレスの先輩レスラーでもある(リバプールの風になった)山田恵一選手の「ジャッキーは武術家ではなくて俳優。体重だって90キロない。試合になるのか?」という旨の発言を受けて「そうだよなぁ」と船木選手も思い直し、対戦を断ったとの事です。つまり獣神サンダー・ライガーが……

この東京ドーム大会にはプロ空手(マーシャルアーツ)の選手で、ジャッキー・チェンとは『スパルタンX』『サイクロンZ』で共演しているベニー・ユキーデが出場、キックボクシングの飛鳥信也選手と対戦しています。



〈2月6日追記〉

ジャッキー・チェン最新作『龍馬精神』。中国で2022年12月31日公開とアナウンスされていましたが、その後に2023年4月7日公開に変更になっていた様です。