かのダイアナ妃も幼少の頃に鑑賞したと言われる『空の大怪獣 ラドン』。
1984年に製作された『ゴジラ』は原点回帰を目指した作品でしたが、内容的には『空の大怪獣 ラドン』に近い要素の多い作品だったと思います。
単純に考えても……
※メガヌロン→ショッキラス
※炭鉱で行方不明になる青年、河村(演 佐原健二)→漁船が沈没し漂流する青年、奥村(演 宅麻伸)
※帰巣本能で阿蘇山に戻るラドン→帰巣本能を利用して三原山にゴジラを誘導
※クライマックスは阿蘇山の噴火→クライマックスは三原山の噴火
……といった感じで、共通点があります。
案外、後に製作された怪獣映画のスタンダードは昭和29年製作『ゴジラ』ではなく、昭和31年製作『空の大怪獣 ラドン』なのかもしれません。
改めて鑑賞して気付く事の1つは、ドラマの密度の濃さです。メガヌロンのエピソードだけでも一本映画が出来そうです。裏庭から茶の間に上がり込むメガヌロンの恐ろしさに震え上がった観客は、時代を越えて存在している筈です。
劇中、「(メガヌロンには)拳銃では刃が立たない」として警察が陸上自衛隊に出動を要請、駆けつけた陸上自衛隊員が機関銃でメガヌロンに立ち向かう場面がありますが、これは害獣駆除としての災害派遣になるのでしょうか?石破茂さんに訊ねてみたいものです。
ラドンが出現してからの特撮場面のクオリティの高さは、今更語る必要もないでしょう。『空の大怪獣 ラドン』製作の翌年にアメリカで『人類危機一髪!巨大怪鳥の爪』という似たタイプの映画が製作されていますが、見比べてみれば一目瞭然。
特撮で一点、特筆すべき処を挙げれば、崩れるビルの窓から避難する人々の姿が見える場面です。世の怪獣少年に留まらず大人の観客、更には他の映画製作スタッフも「どうやって撮ったんだ?」と驚いた名場面で、『ウルトラQ』や『怪獣大戦争』にもフッテージが流用されているので目にする機会の多い映像です。
大映の湯浅憲明監督は、この場面を意識して『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』の、旅館の場面を撮影したのではないでしょうか。
加えて……
『空の大怪獣 ラドン』のラストシーンに於ける“人間とは共存出来ない怪獣の悲劇性”は『ゴジラ』以上かもしれません。
『空の大怪獣 ラドン』に限った話ではないのですが、この作品では、既に失われてしまったものが数多く映し出されます。
風景、街並み、建物、看板、自動車、人々のファッション……4Kの映像で映画製作当時の“それら”が鮮やかにスクリーンに蘇ります。今も変わらず存在しているのは、阿蘇山と西海橋とカトリック三浦町教会ぐらいでしょうか。
東宝の怪獣・特撮映画で、デジタルリマスター版が劇場公開されるのは、本作品で4本目になります。
『ゴジラ/60周年記念 デジタルリマスター版』
『キングコング対ゴジラ/4Kデジタルリマスター 完全版』(限定上映)
『モスラ/4Kデジタルリマスター版』(午前十時の映画祭11)
『空の大怪獣 ラドン/4Kデジタルリマスター版』(午前十時の映画祭12)
次回のデジタルリマスター作品は……初公開当時、制服姿の自衛官が劇場で鑑賞していたとの逸話のある『地球防衛軍』を期待したいです。
『空の大怪獣 ラドン』
1956年 東宝
【出演】
佐原健二
白川由美
平田昭彦
田島義文
山田巳之助
大仲清治
中田康子
小堀明男
村上冬樹
如月寛多
【監督】
本多猪四郎
【特技監督】
円谷英二
【音楽】
伊福部昭
【製作】
田中友幸