その名を耳にして、かつて父親から聞かされていた伝説の暴君の風貌が思い浮かんだ。骨を連想させる白銀の鎧に三白眼。ギザギザがついた大剣を振りまわす武者のような戦士。そいつはまぎれもなく、数十年前に封印されたはずの暴君ダークザウラーであった。
「お前、銅像に封印されていたはずだろ。なぜ、こんなところに……」
絶句するウルブレードを前に、ノロイムカデが弁明した。
「確かに、こやつはわしが封印した。だが、その封印も完全ではなかったということじゃ。長い年月の末にやつを封じ込めていた力が弱まり、そしてついに解放されたのじゃ」
「封印したとはいえ、時間稼ぎにしかならなかったってわけか」
伝説の英雄ウルカリバーがノロイムカデと結託しても倒しきれなかった戦士。それがいま目の前にいる。あまりに由々しき事態にウルブレードは拳を震わせた。
「さて、このじじいに聞けば、ウルカリバー亡き今、貴様が地底帝国の皇帝を務めているそうだな」
「ああ、そうだ」
「ならば話は早い。我とちょっとした取引をせぬか」
「取引だと」
ウルブレードは目を見開いた。あまりに突拍子のない言葉であるが、ウルブレードが拳を構えているにも関わらず、大剣は地についたままだ。
「返答次第では、その命を見逃してやってもいい。本来なら、我に対する反逆罪でこの場で皆殺しにするところだからな」
「封印されていた相手に反逆罪で殺されるなんて、冤罪もいいところじゃねえか」
「その通りだ」
あっさり認めたため、ウルブレードは肩を落とした。
「それについては、このじじいからも指摘されたよ。このじじいに関しては殺す理由は十分だが、貴様を殺しても父親に対する逆恨みにしかならない。我も、皇帝という位を戴いていた身。そんな理由で処刑してもむなしいのは分かっておる」
こいつは噂に言うほどの暴君なのか。ウルブレードの中で疑念が渦巻いた。第一、封印した張本人であるノロイムカデをこうして生かしているところからして妙だ。噂に尾ひれがついているだけなんじゃ。
だが、そんな楽観論は、ダークザウラーのとんでもない申し出によって粉砕された。
「とはいえ、今から我の言う命令にそむけば、立派な反逆罪が成立する。それで殺されたのなら文句はない。して、その命令とは、この場で地底帝国の皇帝の座を我に譲り渡すことだ」