その忠告を聞いたフミンミンゼミは、きびすを返し、先ほどまで潜んでいた最深部に戻ろうとする。だが、べアックスに肩をつかまれ、歩みを止めた。
「敵前逃亡するとは、いい度胸じゃねえか。この俺様に恐れをなしたというなら分からなくはないが、このまま素直に貴様を逃がすほど俺は甘くはないぜ」
「言ってくれるな。だが、それとこれとは話が別だ」
無理やり振り切ろうとするが、べアックスは構わずフミンミンゼミのほほを殴りつけた。
これにはフミンミンゼミも頭にきたらしく、お返しとばかりにベアックスにビンタをお見舞いする。それは甘んじて受けたが、ベアックスはそのことも計算に入れていた。
なぜなら、ノロイムカデの忠告などどこ吹く風で、フミンミンゼミはべアックスに第二撃を加えようとしていたのだ。べアックスはそれを片手で防ぐや、斧を振り下ろす。だが、その斧はすんでのところでかわされる。
「あのバカ。もうタイムリミットまで近いというのに」
「さっきからぶつくさうるさいぞ、じじい」
ワザワイカブトを縛り付けているエレファンマーが吠えた。ノロイムカデはしかめつらをしたが、
「そのことについては、特別に俺から話してやろう」
声を絞り出したワザワイカブトが引き継いだ。エレファンマーは興味深げに作業の手を止める。
「あのフミンミンゼミは、寿命があらかじめ決まった戦士なんだ。ルートの森の最深部には命のともしびがある。最深部にこもっている間は問題ないが、ひとたびそこから外に出るや、ともしびはどんどん弱まっていく。今や、小枝ほどの支柱に申し訳程度に灯っているぐらいだろう。そして、そのともしびが消えたとき、フミンミンゼミの命は尽きるといわれている」
「つまり、このまま戦い続ければ、あいつは死ぬってことか」
ベアックスの挑発に乗ってしまったことで、その危険性は劇的に高まってしまっていた。べアックスにそのつもりはないだろうが、長期戦に持ち込まれれば、自動的にフミンミンゼミの敗北が決まってしまう。それだけに、あえて戦いに挑んでいるフミンミンゼミの行動は解せないものだった。
だが、ノロイムカデの懸案とは裏腹に、フミンミンゼミはある覚悟をもってこの戦いに挑んでいた。ベアックスが大きく斧を振り上げ、胸元ががら空きになった瞬間、フミンミンゼミはさっとその胸に抱きついた。
同性に抱擁される趣味はないべアックスはすぐさま引き離そうとするが、しっかりと抱きしめられたまま、離れる気配はない。
「くそ、気持ち悪いマネをするんじゃねえ。さっさと離れろ」
「なら、お望み通りにしてやりましょう。ただし、それはあなたと俺様の命が尽きることを意味しているがな」
「どういうことだ」
「こういうことだ。破壊摩熱音波」
フミンミンゼミは超高速で羽根を振動させた。ゼロ距離からの破壊音波。否、それよりも過酷な技を繰り出していた。証拠に、お互いの体から湯気が発生し始めていたのだ。