アクアヒルは、自分の体を物珍しげに眺めている。勝手知った身体と大きく変容しているのだ。戦士なら誰でも通る道だが、慣れるまでには今しばらく時間がかかるだろう。
「あんたが、私の新しい部下ってわけね。なかなかかわいらしいけど、戦いにおいては役に立つのかしらね」
「あんな外見だが、実は意外と強いということもあり得ますぞ」
ソニクジャクとそのわきに控えるコルコンドルは、さっそくアクアヒルに対する評価を話し合っていた。それを知ってか知らずか、アクアヒルは大げさに「グァー」と鳴き声をあげるのだった。
「さて、まだ一体目の転生が終わっただけじゃ。次なる転生に移るから、さっさと準備に移れ」
ノロイムカデの一言で、ざわめきが沈黙へと変わった。アクアヒルも、そそくさとソニクジャクの傍に退散していく。
入れ替わるように魔方陣の中心に立ったのは、例の無愛想なモグーン兵だった。アクアヒル誕生の際も、その憮然とした態度を崩そうとはしなかった。
「始めるぞ。準備は良いかな」
ノロイムカデの問いかけにも、軽く首を動かす程度で応じた。
またもや松明の火が消され、ノロイムカデは一心不乱に杖をふるう。あやしげに揺らめく光。そして放たれる紅の光線。さきほどとまったく同じ工程が繰り返され、松明に再度炎がともる。
今回の儀式で、ウルブレードをはじめとした軍団の長たちは、少なからず不安を感じていた。儀式の際に放たれる光線はかなりの激痛を伴うはずだ。だが、あのモグーン兵は光線照射の際も、一切悲鳴をあげなかったのだ。感覚が鈍いできそこないか。それはそれで問題だが、その真逆だった場合が、もっと問題があった。
そして、そんな懸念は、どうやら現実になってしまったらしい。視界が回復して飛び込んできたのは、漆黒の鎧をまとい、二対に斧を構え、牙をむき出しにしたなんとも凶悪そうな戦士だったのだ。
そのあまりの迫力に、不覚にもひるんだノロイムカデだったが、気を取り直して、
「転生完了。そなたは、獣刃大将軍の」
命名しようとした矢先、「ベアックス」と割り込まれた。
睨みつけるノロイムカデだったが、そんな彼を無視し、べアックスは高らかに宣言した。
「俺の名はべアックス。この地底帝国を支配する男だ」