鬼火のように2つの光が揺らめく中、ノロイムカデは術を詠唱し続けた。まったくもって表記不能ではあるが、「かのものに祝福を、そして、あらたなる命を与えたまえ」といった意味の言葉を紡いでいた。
その詠唱は、数十分にわたって続けられた。観衆も気の遠くなるような時を過ごしたわけだが、転生を受ける当の本人は、数日もの時を感じたであろう。
すると、ノロイムカデの口調がだんだんと激しくなっていった。最初は呟いているかのようだったのに、その声量は上がっていき、今やほとんど怒鳴っている。それに合わせるかのように、杖から発せられる光もあらぶり、そこここを照射しては消えていく。
「カーッ」
ノロイムカデがあらん限りの声を立てると、杖の光は一筋の光線へと集約した。赤色の光線はまっすぐにモグーン兵へと浴びせられる。
光線の直撃を受けたわけだが、特にダメージはない。ただ、その光は、外部の者からの視線を完全に遮断していた。
光線の内部からは、モグーン兵のうめき声が発せられる。この儀式を経験した戦士たちは、うっすらとその時の記憶があるのだが、あの光線を浴びせられると、体の節々に激痛が走るのだ。関節をあらぬ方向に曲げられているかのような気分といえば、想像がつきやすいか。
ただ、実際は、関節を曲げられるとか、そんな生易しいことは起きていない。あの光線により、モグーン兵の体は一度バラバラに分解され土くれと化す。そこから、土の塊が集まっていき、新たな体を構成していく。一瞬とはいえ、確実に命が奪われるので、まさに「転生」の儀といえよう。
赤の光線の威力がだんだん弱まっていく。それを合図に、魔方陣の四隅に陣取っていたウルブレード、ブルドリラー、ソニクジャク、エレキバットはゆっくりと松明に火をともした。
視界が回復していくにつれ、魔方陣の中央にいるモグーン兵の異変にいやがうえでも気づく。いや、そいつはもうモグーン兵ではなかった。
青い流動的な体に、黄色の口ばし。ふさふさの毛に覆われた大きなお尻に、水搔きがついた足。転生したモグーン兵は大きく「グァーッ」と鳴いた。
「転生成功じゃ。そなたは風切頭領軍の新たな戦士、アクアヒルじゃ」