「この度の儀式に選ばれたのは、獣刃大将軍のモグーン兵と風切頭領軍のモグーン兵。両者は、これからの地底帝国の歴史を受け継ぐ戦士になるからして、その名誉に賞賛の拍手を送りたい」
ノロイムカデの音頭に合わせ、会場中から拍手が鳴り響いた。照れくさそうにしているモグーン兵がいる一方で、もう一体は相変わらずの無愛想だった。
ノロイムカデが杖を掲げるや、会場を包み込んでいた拍手が一瞬のうちに鳴りやんだ。そして、ノロイムカデはつかつかと、主役であるモグーン兵のもとに歩み寄っていく。
「では、まずどちらから儀式を施そうかの」
ノロイムカデの目が逡巡する。その視線から逃れるようにする者もいれば、にらみ返してくる者もいた。一息つくや、ノロイムカデは、左人差し指で、モグーン兵を指した。
「お主、落ち着きがないということは、早く転生した姿を見たいということじゃろう。ならば、その望みをかなえてやるわい。お前さんは、すまんがしばらく待っておれ」
だが、それを言い終わる前に、高台をさっさと後にしていく。ノロイムカデはしかめつらをしたが、すぐに儀式の対象に向きなおった。
「さて、始めるとしよう」
そう言うと、魔方陣の外に出て、再び杖を掲げた。それを合図に、四方を照らしていた灯の火が消される。一瞬のうちに、会場は暗闇へと包まれた。
もともと薄暗い地底で暮らしているとはいえ、完全な真っ暗闇ではさすがに身構える。儀式の対象という特異な状況であればなおさらだ。会場を埋め尽くす大衆たちは、儀式ということもあり、騒ぎたい気持ちを必死でこらえていた。
すると、暗闇の中に赤い光が二つともった。それは、前後左右にせわしなく動き回る。うっとうしい羽虫のようだが、それだけしか視認できないとかなり不気味であった。
そして、静寂の中、重低音の呪文が詠唱される。それは、新たなる命を得るものへの祝詞であった。地底帝国創始以来、長年にわたって受け継がれているもので、現在それを完璧に唱えることができるのは、ノロイムカデのみとなっていた。
いよいよ、儀式の本番が始まる。いやがうえでも、会場全体に緊張が走った。