ノロイムカデの「念動波(サイコキネシス)」の効果で、地面にたたきつけられたウルブレード。やはり、このじじいとまともにやりあおうとすると骨が折れる。
「ウルブレード様、大丈夫ですか」
「ああ、問題ない」
心配して駆け寄ってきたガゼルスピアーに耳打ちする。幸いなのは、こちら側は二体で戦えることだ。あの術はタイマンだと厄介だが、共闘できるのなら打つ手はある。
「ガゼルスピアー、ちょっといいか」
ウルブレードはひそひそ話で、ガゼルスピアーにある作戦を打ち明けた。ガゼルスピアーはうなずくと、槍を構えてノロイムカデに向き直った。
「ほう、今度は若造ではなく、ひよっこが相手か。どちらが先に来ても、構わんがな」
哄笑するノロイムカデをよそに、ガゼルスピアーは真正面から突っ込んで行った。
そんな単純な攻撃が通じないのは先刻承知である。ノロイムカデもまた、赤子の手をひねるかのように術を発動した。とたんに、ガゼルスピアーの体が浮き上がる。見えざる手により、宙吊りにされているかのようだ。
だが、それは計算通りだった。ノロイムカデが次なる一手を発動しようとした矢先、ウルブレードの凶刃が迫った。
決まった。
……否。
「馬鹿な」
頭蓋にめり込んでいるはずの刃は直前で静止していた。正確には見えざる壁で阻まれていたのだ。ありえない。二種類の術を同時に発動しただと。
「馬鹿なのは貴様じゃ、若造。ガゼルスピアーに注意がそがれている隙に不意打ちをしたつもりじゃろうが、そんな浅はかな戦法など片腹痛いわ」
ウルブレードはほぞをかんだ。それとは対称に、ノロイムカデは邪悪な笑みを浮かべ、ガゼルスピアーを見つめる。
「ただ、今回はお主に礼を言っておくとしようかの。なにせ、ありがたい贈り物をしてくれたのだから」
「おくりものだと!? ふざけるな」
「ふざけてなどおらん。今から証拠を見せよう。傀儡人形劇(マリオネットショー)」
ノロイムカデの複眼が紅に輝いた。その光はガゼルスピアーの額に集約していく。それにもかかわらず、ガゼルスピアーに苦悶の表情はない。直接的な攻撃ではないのか。
ウルブレードがいぶかしんでいると、最初の異変が立ち現れた。ガゼルスピアーの額に複雑怪奇な文様が浮かび上がってきたのだ。それは、ちょうどこの時代、地上で人間が壁画に残した文字と酷似していた。
紅色の文様が描かれるや、術から解放されたのか、ガゼルスピアーはその場に倒れ込んだ。あわててウルブレードが駆け寄る。目をつむって、ピクリともしない。体にはまだぬくもりがあり、外傷もないことから、単に気を失っているだけだろう。ウルブレードは憎しみをこめ、ノロイムカデをにらむ。
しかし、ノロイムカデは我関せずといった体で、ひとつ柏手をうった。それは、一見するとなんら意味がない行為のはずだった。
だが、それを契機として、突如ガゼルスピアーが目を覚ましたのだ。それだけでも驚きに値するが、問題はそこではなかった。うなりながら矛先を喉元に向けている。その相手がノロイムカデなら別に気にすることはない。そうでないから、ウルブレードはひどく困惑しているのだった。
ガゼルスピアーは明らかにウルブレードを標的に定めていた。