「オホホホホホ。苦しみなさい」
ゲンワクアゲハの鱗粉に惑わされ、なすすべもなく倒されていくモグーン兵たち。それに活気づけられたのか、呪術軍師側のモグーン兵も反撃を始めた。いくら数が多かろうと、木偶人形と化した敵に負けるはずがない。戦力差で有利だったはずの同盟軍側は、着実のその自慢の戦力を削られていくのだった。
この調子で、生意気な狼の若造を打ち倒す。ワザワイカブトには悪いけど、この大戦で一番の手柄をあげるのは私よ。蛇行しながらも、ゲンワクアゲハの瞳はただ一点を見据えていた。
しかし、眼前に突如として槍が立ちふさがった。あわてて急停止する。すると、今度はドリルを突き付けられた。これらの武器には見覚えがある。もしや、もう戦線に出てきたのか。
「ゲンワクアゲハ、これ以上お前の好きにはさせないぞ」
「ガゼルスピアーにブルドリラーね。あなたたちこそ、私の邪魔をしないでほしいわね」
言うが早いか、ゲンワクアゲハは鱗粉をばらまいた。あれを吸うと幻覚に襲われる。だが、不意打ちされたせいで、鼻をふさぐ余裕がなかった。
ガゼルスピアーとブルドリラーは頭を抱えた。目眩がして、ゲンワクアゲハの輪郭がぼやける。彼女の術は何度かくらったことはあるが、せいぜい相手の姿がぼやける程度だ。なのに、今は体がだるくて仕方がない。
「貴様、これはただの鱗粉じゃないな」
「さっそく気づいてもらえて光栄だわ。そう、これこそ、私自慢の毒鱗粉。死にはしないけど、しばらくまともに動けないでしょうね」
この戦いのために、ノロイムカデに特別に調合してもらった毒を羽根に仕込んでおいたのだ。単純な戦闘力では、どうしても他の男の戦士たちに劣ってしまう。万が一同盟軍の戦士と遭遇したときに発動し、敵の行動力を奪う算段だったのだ。
見事に敵の術中にはまってしまったガゼルスピアーとブルドリラー。このまま、ゲンワクアゲハに一方的になぶられるのか。ゲンワクアゲハは笑みを浮かべ、首根っこをつかんで窒息させようとした。
だが、ここでおかしなことが起こった。相手はろくに動けないはず。なのに、いくらやっても首をつかむことができないのだ。わざとやっているわけではないのに、どうしても手が空振りしてしまう。あたかも、自分が幻覚にかかっているかのようだった。
「あんたら、何か小細工したわね」
ゲンワクアゲハは声を張り上げた。対し、ガゼルスピアーとブルドリラーはほくそ笑むのだった。