【トルストイとレビン】
皆さんがこのミュージカルをご覧になるとき、見方によっては中心的に見えないかもしれませんが、実は重要な役割を持っているキャラクターに注意を払って観ることをお勧めします。それはレビンと言うキャラクターです。
レビンという名前自体が、トルストイが自分を投影している証拠だと言う評論家もいます。トルストイの名前がレブ・トルストイなので、自分の名前を少し変形させてレビンと言う名前にしたというわけです。
レビンはキティーにプロポーズを断られた後どうしたか?「この貴族社会の虚栄、虚飾、全てが嫌だ」と言って、田舎に行き農業に従事します。
その後結局キティーも田舎に行き、社会の束縛と貴族の虚栄から抜け出した空間で、二人は幸福を見つけるというサイドストーリーがあります。
アンナ・カレーニナとブロンスキーは、社会の束縛から抜け出せない都市という環境にいるので…、どうなるのかはお話しできませんけれども。
キティとレビンの二人は、社会の束縛を脱ぎ捨てて田舎に行ったために幸福を見つけたというメッセージが強く投影されています。
【トルストイと農業】
それではトルストイは、なぜ農業をこれほど重要視したのでしょうか。トルストイは実際のところ、ロシアが西洋化を失敗したために非常に住みにくい国になったと考えていた人物でした。
昔のロシアでは、昔の貴族は農地に住んで、農民と共に喜びと悲しみを分かち合っていました。凶作の年には心を痛め、豊作の年には一緒にパーティーをした人々だったのです。
しかし西洋化が進み、貴族たちが皆自分の農地を捨てて首都へ来てしまったので、貴族だけで集まり無駄に自尊心を戦わせて、彼らの存在が農民たちにとっては何の助けにもならず、農民は重い税金を支払って彼らの舞踏会や宴会を賄ってやらなければなりませんでした。トルストイはそんな状況を悲観的に見ていたのです。
トルストイのこの写真を見ると長いヒゲを生やしていますね。ピョートル大帝がヒゲに税をかけたりして西洋化を進めた話を思い出していただければ、ヒゲを伸ばすのが西洋化に対するどれほど強い反抗のイメージなのかが分かります。
トルストイがミュージカルや本に出てくるレビンのように、実際に農繁期には自ら鎌を持って田舎の農民たちと一緒に働いたのは大変有名な話です。
トルストイが直接始めたことではありませんが、後にトルストイのライフスタイルを意味する「トルストイズム」が作られました。トルストイ主義です。
産業社会と都市化によって人間性が崩れていくので、我々は皆一緒に農場で農作業をし、分け合って食べることが、もっとも人間性を壊さない素晴らしい人生だという哲学が広がり始め、世界のあちこちでトルストイの人生を模範にした「トルストイ農場」も生まれ始めました。
最も有名な「トルストイ農場」が南アフリカ共和国にあった農場です。ここで農業をしながら、より良い世界を夢見た人がいます。それがまさにガンジーです。
そうした事を知ったうえで、レビンというキャラクターを詳しく見れば、メインのラブストーリーではありませんが、トルストイが本当に語りたかった話、アンナ・カレーニナの悲劇と対照させて幸福をつかんだ人の姿をレビンに投影したのです。
2つのカップルを比較する時、アンナ・カレーニナが真に投げかける質問があります。自分が心のままに愛することができず、自分の人生を心のままに生きられない対価が都市生活の虚栄だが、その虚栄という費用を支払う価値はあるのか?その質問を私たちはよりはっきりと見ることができると思います。