高校三年生、儚い時の刻限。
卒業も間近の青春真っただ中、
遊びほうけていたある日、
地元のラップのイベントへ行っていた。
まだ当時高校生だった私にとって
ラップで思いを語るスタイルは
それが何者であるかは関係なく、
ただかっこよく見えた
ライブが終わり、
闇に包まれたベンチに座り
余韻に浸っていると
そこに奇怪な男が現れた。
入れ墨が体に描かれ、
彼の真っ直ぐな視線は、
私をおびえさせた。
避けるように視線を落とし、
彼を避けようとした。
しかし、もじもじとしながら彼が私に近づく。
「君の連絡先、教えてくれないか?」
(こんな感じの言い方だった確か。)
その言葉は、闇の中に囁かれる秘密めいた呼びかけのように聞こえた。
不安が心を支配し、拒絶の意志は忍び寄る恐怖に押し流されていく。
私は弱々しく、翻弄されるように連絡先を渡すことにした。
やりとりが始まり、私は未知の領域へと引きずり込まれていく。
彼の名は巧(たくみ)。
地元のラッパー、巧に恋に溺れる。
彼の視線の奥に隠された熱情に、私の心は渇望する。
見た目の謎めいた風貌と、もじもじとした内面のギャップが、
私を惹きつける禁断の誘惑となっていく。
だが、彼の本心は嘘に包まれていた。
蓋を開ければ、巧の世界には既に本命と呼ばれる彼女の存在があった。
体だけの関係、虚ろな遊び。その真実を知ったとき、私の心は痛みに満ちていった。
彼の飲み仲間との時間、私の存在を遊びの道具として招く。
私はただの傍観者、遊び相手。
彼の本命の女が傍にいることを知りつつも、
彼の元へと引き寄せられていく。
日々、彼に捧げる想いの断片。
彼の視線が私に向けられない切なさ。
自分の価値の無さを感じ、純粋な心が私を苦しめる。
愛されないという思いが、
私を過ちへと駆り立てていく。
もっと彼を知るため、もっと彼を愛するため、私は自分を失いかけていく。
だが、高校を卒業し、専門学校へ通い、二十歳を迎えようとしても、私の心は彼への渇望から解き放たれていない。
闇が私を包み込むように、夢幻の世界へと誘う調べが聞こえる。
学園生活で新たな進展がある。
親友が気になっているという成田君。
彼とは階段でよくすれ違う
彼と接点を持ちたい親友のために
私は親友とその彼を連絡先を交換させて、
場を設けたりして
キューピット役をしていた。
だが、待ち受けていた現実は
彼は、キャバクラや風俗への女性紹介をする仕事をしていると告白する。
彼のチャラチャラとした振る舞いが、私を困惑させる。
成田君の案内で、私は「おさわりの仕事」と呼ばれる領域へ足を踏み入れる。
火遊びのような瞬間が私を奮い立たせ、禁忌の扉を開けるのだった。
裏表のない自分がダメだと思っていた私は、
巧にとって裏の顔を作るために
危険な橋を渡ることを選ぶ。
人生は次第にどんどん狂っていく。
居場所が失われていく。
19歳・家出
家を出た。
闇に彷徨いながら、自らの生活費を稼ぐため、私は自分の身を売る選択を迫られた。
専門学校での学びは絶対にやめたくなかったので、
夜を徹して資格の勉強に励む
留学の夢に胸を膨らませるが、その途は険しい。
留学費用なんてあるはずもなく、
思いついたのはサイコロと呼ばれる外国人客多めの
ダンスクラブで働くことだった。
沢山の叶えたい夢に
専念する日々の中で、
自己実現の夢と現実の温床が交錯する。
アメリカの風を感じる土曜日、
外国人への接客の中で、英語を磨く定だったが、
現実は思い描いたものとは違った。
一晩で1000人ほど集まる人気クラブだったこともあり、
業務に追われ、外国人とのコミュニケーションとは程遠かった
望みは果たせぬまま、苦悩にさいなまれる。
夢の途中で気付く、やりたいことを求める闘いの難しさ。
結局、夢を叶えるために、多くを求めすぎたのだ、
すぐに幸せになろうと無理をした結果
苦しみ躓いたのだろうと
32歳の私はおもう。
夜の仕事の秘密、誰にも言えない恐怖。
痛みと悲しみの日々、その闇が深まっていく。
しかし、その中で見え隠れする優しさ、
共に働く人たちの
暖かなやさしさが
私を支え続けた。
これが私の10代最後の物語
辛くとも、切なくとも、
私は自分を見つめて歩み続ける。
そんな地獄のような日々を終え
無事に専門学校を卒業し、
昼の仕事に就くことで新たな一歩を踏み出した。
今までの人生を振り返っても
あの時が1番闇に自ら引きずり込まれ
人を好きになり
純粋に夢を追いかけていた
あれから、徐々に落ち着き
あの時以上の苦しみはいまはもうない。
私の闇は終わったと思われたが
明るさの中にも必ず闇は存在していた
幸せの中に苦悩
苦悩の中に幸せ
物語は続いていた
※登場人物の名前は本名ではありません