今日は私の経験談ではなく、妻のお話です。
私ども夫婦が伊丹のマンションに移転して参りまして、かれこれ30年ほど経過します。当時はまだJR伊丹駅近辺には店舗も少なく、夜ともなると真つ暗で、女性一人では怖いといふので、妻の外出時には駅まで迎へに行つたものです。
それに較べると、阪急伊丹駅の近辺は大きな商店街が近くにあり、夜の盛り場も広域で極道さんの事務所も二つございました。株式会社関西スーパーマーケットは伊丹で産声を上げたといふこともあり、阪急伊丹近辺は系列のショッピングセンターが立ち並び、今も大きく事業を展開されてゐます。
その阪急伊丹駅を西へ500mほど参りましたあたりに、古くからTといふ饂飩(うどん)のチェーン店がございます。大きなお鉢に太い麺、3玉まではお代はり自由といふのが人気でございます。
かつて私も大阪の姫島で饂飩屋の店長をしてゐた経験があり、饂飩には目がありません。
ある夏の日、今日の昼食は饂飩食べ放題にしやうと、二人でTに足を運びました。私は「男はホットや!」といふのがモットーで、真夏でも熱い饂飩を食します。一方妻は暑がりの寒がりで、夏は冷やし饂飩を好みます。
その日も妻は「ざる饂飩」を注文し、嬉々として食し始めました。ところが徐々に浮かぬ顔になつて参ります。
「ねートリトン、私つて口が変なんだろか? 出汁が甘くて全然美味しくないの」(妻は東京弁です) と申しまして、半分以上を残してゐるのです。「ほんまに要らんのか?ほな俺がもらふわ」と、残りの饂飩を出汁につけて啜り上げました。
「うっ!」
何と、その出汁はアイスコーヒーだつたのでございます。すぐに店の人(女性)を呼び「この出汁、何や? コーヒーの味するでー」と叱りました。無論、先方は平謝りで、すぐ取り替へやうとしましたが、妻は既に食欲を失つてをり、その分だけ料金を支払はずにその日は帰つたのです。
閑話休題。
数日後、長女のママ友が小学校正門付近に寄り集まり、妻もその場に居り談笑致しをりました。その中の一人が、「ちょっとちょっと、こないだバイト先で面白いことがあつたんよ」と話し出すのを聞いてゐた妻は、その母親の顔を見て「あっ」と思ひましたが、相手は気付かず話を続けます。
T店でアルバイトをしてゐた彼女が、店の冷蔵庫に休憩時のためのアイスコーヒーを冷やしてゐましたが、先日そのコーヒーを同僚店員が冷やし饂飩のつゆと間違へて出した… といふ、まさにその話だつたのです。それを面白いといふ感覚が許せず、妻は頭に来ましたが、何も言はづにその場を離れたといふのでした。
そのやうな失敗談を得々と笑ひ話にするやうな店員が居る店は、もう二度と行きたくない… と妻はそれ以来足を運びません。今や近辺には丸亀製麺や金比羅製麺など、名だたる有名店が覇を競ひあひ、T店は苦戦を強いられてゐるさうです。因果応報といふべきでせう。



