ある青春の血の迸(ほとばし)り | 還暦を過ぎたトリトンのブログ

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団塊世代よりも年下で、
でも新人類より年上で…
昭和30年代生まれの価値観にこだはります

 中学生の頃、ほぼ誰もが一度は読む本に、夏目漱石の「坊っちゃん」(明治39年作品)がございます。後年のテレビ青春ドラマの原型とも言へる、文字通り血沸き肉踊る作品で、何度も映画化されてをりますね。

 この中にでてくる主人公の祖母「きよ」さんは、越後の笹飴が大好きでした。命名とほり飴を笹の葉で包んだ銘菓で、今も新潟県上越市の名物として知られてをります。

 

 和菓子には、葉でくるんだものがよく有ります。

 四月の「桜餅」は、ピンク色の餡入り餅を塩漬けにした桜の葉で包んだもので、葉ごと食すると、ほんのり桜の香りが楽しめます。

 五月のこどもの日には、真つ白の甘餅を笹の葉でくるんだ「ちまき」。これは笹の香りが新鮮で、童謡「背くらべ」にも歌はれてをります。因みに「柏もち」も「ちまき」も葉そのものは食べません。

 このやうに、葉ごと食するものも有れば、あくまで葉の香りを楽しむものがございます。

 

 中学・高校・大学を通して私の友であり、現在も親交のあるM君は、かつて野球部主将を務めるほどのスポーツマンでしかも巨漢、さつぱりと竹を割つたやうな剛気な性格でございました。ワルのグループからも一目置かれるほど人徳もございました。

 そんな彼も交じゑ、高校時代に長野へスキー合宿(選択コース)に行つたのです。旅館には各部屋に茶菓が置かれてゐるものです。なぜか季節はずれではありましたが、鮮やかな緑の笹の葉に包んだちまきが置かれてゐたのです。

 

 当然未成年ではございますが、夕食が済み、部屋に引き上げると先生に隠れて酒も飲みました。

 「おい、何かアテ無いか?」

 「何も無いけど、ちまきがあるで」

 M君は、ちまきをむしゃむしゃと食べながら酒を飲み始めました。

 暫くすると酔ひが回つたのか「ちまきの笹、剥くの面倒やなー」と言ひつつ、何と笹ごと食べ始めたのです。男らしいと言ふか、無謀と申しますか…、若い頃にはしばしば有るものです。

 

 翌朝のこと。トイレが満員だつたので、M君は外で用を済ませやうと下駄を履いて、寒い雪の中へ出てゆきました。

 暫くすると、M君が真っ青になつて部屋へ帰つてきました。

 「えらいこっちゃ、切れてしもたわ!」

 尋ねると、外で大を催したので、排泄したところ、笹の葉で肛門が切れてしまつたと言ふのです。

 旅行中のことで、そのやうな病気の薬もございません。慌てて旅館の仲居さんに相談して、オロナイン軟膏を処方していただきました。

 あとで仲間で現場検証に参りますと、純白の雪原が鮮血に染まつてゐるのが見ゑました。

 

 いくら面倒だからと言つて、笹の葉を剥かずに食するのは良くない… 貴重な教訓を得たスキー合宿でございました。   <完>