「どうぞ。」
こんがり焼けたトーストと、ベーコンエッグが目の前に置かれた。
「あ、どうもすみません。」
母の家出は本格的だった。午後には住み込みの家政婦さんがやってきて、
家の事をテキパキとこなしている。
母の実家に勤めている人だ。
「旦那様、お仕事はちゃんと行ってください。
いくらお兄様の会社でも、あまり勝手するとクビですよ。」
オヤジは、チッっと舌打ちをして
席を立った。
「杏樹様は、宇喜多が送りますから、準備なさってください。」
「あい!」
そう言うと自分の部屋に戻っていった。
一人テーブルに座る俺は、ふたり分の食器を片している宇喜多さんに
「時に、宇喜多さん母は帰ってくるんですかね?」
と質問した。
「さあ?私はしばらく家のことを頼まれただけですから。
学校の方で、確かめられたらどうです?」
「はあ、そうですね。」
母は俺の言っている学園の学園長をしている。
創立者が曾祖父さんで、昨年から学園長の職を引き継いだ。
教え子の子供が出来ても、職を失わなかったのはそのおかげだ。
まあ、この件はおやじの家の方でもみ消したという方が正しい。
家の家族が普通でないなら、両親の実家もこれまた普通ではないのだ。