「お、いらっしゃい。樹里ちゃん!」
「マスターいつものくださいな。」
正面のカウンターに、腰を下ろした。
「OK、ロイヤルミルクティーにホイップクリームたっぷりね。」
「うん♥ありがとう。」
マスターはくすりと笑いながら、
「いえいえ、これでも一応彼氏ってことですから。」
と、答えた。
「うん。今まで無理言ってごめんね。ありがとう。」
家族にはマスターと付き合っていることになっている。
本当は、今日という日の準備のために自由になる時間が欲しかったから、
マスターに協力してもらったんだ。
マスターは、茶器をお湯で温めながら、
ミルクパンで紅茶を煮出し始めた。
ミルクとアールグレイの香りが混ざって届く。
鼻の奥がキュンとなる。
「残念、マスターの作るミルクティー飲むのも最後なんだ。」
「本当に行っちゃうの?樹里ちゃん。」
「だって、あそこはあたしの場所じゃないもん。
居場所が有るってわかったら、一樹と杏樹に返さなきゃ。」
「いつ行くの?」
「今日、迎えが来るはず。」
マスターは無言でミルクパンからティーカップに注いだ。
「ちゃんとさよなら言えたの」
「ううん。無理だよ泣いちゃうもん。」
あたしの目の前にカチャリとミルクティーを置いた。
「みんな悲しむよ?」
「そうかな?そうだろうな多分優しい人たちだから。
いつか戻るつもり、恩返しするために。」
ホイップクリームをぽとりとカップに落とした。
「もう、これ作るのも最後なんだね、『樹里スペシャル』」
こんあ薫り高いミルクティーを飲むのもこれが最後だろう。
カラン
人の気配がした。
「お嬢様お迎えにあがりました。」
「今までありがとう。」本当に、好きだったよマスター。」
「僕も、君みたいな可愛い子の恋人役ができて幸せだったよ。」
「さようなら。」
まだ飲みかけのカップを残して、あたしは迎えに来た男とともに店を出た。
色変えができない~なんで。゚(゚´Д`゚)゚。