「あまり、効き目はないと思うが、それでもないよりあったほうがいい。」


そう言ってドクターは炎症止めと、痛み止めをくれた。


早い時期なら、この薬の服用を一週間もすれば散らせるのだそうだが、


ぼくは我慢しすぎたために、


腹膜炎を起こしかけているらしい。


無理をしないこと、戻り次第手術することを約束し、


僕たち親子はコンクール会場に近いホテルに向かった。


千葉は、


「頑張ってね。」


そう言って家に帰っていった。


今日は引越しの準備で忙しかったはずなのに、ずっとぼくのそばにいてくれた。


千葉にとって、大切な時間をぼくはこんなことで独り占めしてしまった。


こうなる前は明日見送りに行くといったけれど、


行けるはずもなく、こんな中途半端な別れになってしまった。


千葉はどんな気持ちでいるんだろう。


こんなことになってしまったけれど、とにかく明日ベストを尽くそう。


その先のことはそれから考える。


新幹線の背もたれにだらしなくもたれながら、


下腹部の違和感に耐えていた。


あす一日持ってくれぼくの体。