千葉はずっとついていてくれたみたいだった。
意識を取り戻すまでどのくらい時間がかかったのか、
その間ずっと俺の手を握っていたらしい。
俺に握られてできた、腕のあざが痛々しい。
しばらくして、病室のスライドドアが、スッと開き、
看護士さんやらドクター、あとに続いて、
父さんと母さんが入ってきた
母さんは涙目で、父さんは苦笑していた。
「気分はどうですか?」
ドクターが笑顔で聞いたので、
「あ、まあ、たいしたことないです。」
救急車で運ばれるなんて大したことだけど、不思議と痛みは収まっていた。
「よく我慢しちゃったみたいだね、かなり炎症起こしているみたいだったよ?」
「お母さんから聞いたよ?明日は大切なコンクールがあるんだって?
とりあえず、炎症を抑える薬と、化膿どめ、痛み止めが効いてるから、
この状態だけど、あまりお勧めはしないな?
手術してすぐ取っちゃうのが得策なんだけど、君はどうしたい?」
俺は母さんを見上げる。
母さんは泣きながら頷いていた。
受けなくてもいいという意味だと思う。
でも俺は、
「一日くらいなら、なんとかなりますか?」
「う~ん、困ったねえ?なるかもしれないし、ならないかもしれない。
この様子だとまた痛くなると思うよ。」
「できるだけやりたいんです。終わったら手術しますから。」
そんな俺を、千葉は少し離れたところから黙って見つめていた。
そんなに無理してまで、演奏したかったわけじゃなかった。
でも、俺のせいで、辛い思いをしたり、
自分を攻めたりとか、誰にもして欲しくないと思った。
多分、千葉も、母さんも、
一緒にいたのに気づかなかった自分を
責めている気がするから。