ぼくの部屋にちょこんと座る千葉は、実は妄想なんじゃないかと
思うぐらい。ヤベ、うれしくてドキドキする
千葉はキョロキョロ部屋を見渡すので、何か見られちゃいそうでヒヤヒヤだ。
「あんまり見んなって」
「すごいね。部屋にピアノあるんだ?」
「母親の嫁入り道具らしいよこのアップライト。
リビングにあるグランドが入学祝いで買ったやつあっちが俺の。
まあ、最近はこっちばっか弾いてるな、部屋にあるから。」
「すごい環境で弾いてたんだね、あたしが太刀打ちできるわけなかったはず。」
「ん?」
「ああ、なんでもない。」
「ごめん。今日は弾けないんだ。」
「や、ああ、そう言うんで来たわけじゃないの。
謝らなくちゃなのかと思って。」
「謝る?」
「だって、好きって言ってくれたのに…あたしったら…」
「しょうがないよ。悪いからって付き合うもんじゃないしさ。
気にしてくれただけでいいよ、ありがと。
それに、そんなことで休むほどヤワじゃないつもり。
午前中は熱あったし、指を心配して休みとらされた。」
「指!え?大丈夫?」
「うん、たいしたことないのに大げさなんだよ。
玉山学園のコンクールあるんだ。もう直ぐ。」
「出るの?」
「今年は様子見。来年は絶対賞取らないと。
奨学金貰わないと、ピアノ続けらんないから。」
「すごい!なんだ昨日中途半端なんて言ってて、
そんなことないじゃない。ちゃんと進路考えてる。」
そんな尊敬の目で見られたら、困る。
ぼくの野望は君に聴いてもらいたいだけなんだから。
小さい野望だよ。
キラキラした目で見られて、居た堪れないよ。