丙辰幽室文稿              吉田松陰

坪井氏に与える書(2)        安政3年5月10日


前回の続きです。

佐久間象山の赦免、金子重輔の葬祭・建墓、獄囚の赦免を頼んでいます。


―――――

子明(佐久間象山)は今年46歳で、学問に冨み、力が充実しており、その能力を天下にはたすのは、まさに今がその時なのです。

今この時を考慮しないでそのままにしておくと、老死はすぐに来るのです。20年後は、今とは異なるでしょう。だから、どうしてその能力を惜しまない訳はないでしょう。


僕の如きは、子明より若い事20年。20年の可能性をもって書を読み、学問の励み、その力を将来に恃むとしても、“未だ遅し”とはならない。

それはすなわち、私が訪問されるのを辞退し、外出出来なくても、そんなに惜しむものではありません。(自宅謹慎の私とはちがうのです。)


しかしもし、幸いにして罪を軽減され、我々の同士に学問の徳を磨き修めさせ、固陋・心狭く見識が浅いというそしりをなくすようになれば、この事はさらに利となり、望外の事です。


また、金子重輔は先に既に死亡している。しかし、葬儀も行なわれず、墓もない。僕は、この事を深く憐れむのである。

だから、略式の葬祭をして、その恩が枯骨に及ぶならば、僕の幸せは最も大きくなるのです。


僕は以前、兄にお願いし、野山の囚奴の釈放を、請願してもらいました。今重ねてその請願をお願いしたい。


これら皆は、僕が懸念して、日夜忘れられない所であります。

そしてこれらの事は、座下・貴方様でなければ、お願いする者がいません。

ただ、座下が私の数々のお願いを、とがめる事がなければ、幸甚です。

                           寅二 再拝。