意識問題はやはり、
「ハードプロブレム」といわれる感覚的クオリアを追究にこそ本質的真髄があります。私の目の前に見えているパソコンの画面がどうして、物理的物体のかたまりである脳の働きから生まれてくるのか。見えているものは何なのか。
この問題の解明に、多くの科学者、心理学者、哲学者がこぞって取り組んでいますが、現在いまだ解決されていません。
しかしながら、多くの仮説、提案が用意されているのも事実です。力不足の私ですが、これらの提案・仮説・理論を紹介します。
まずはチャーチランド夫妻の説を
「意識の認知科学」苧阪直行編 共立出版 2000年
の中に収録されている
「最近の意識研究――哲学的、理論的、経験的観点から」
を本に紹介します。
チャーチランド夫妻はカリフォルニア大学の哲学教授で意識等を研究されています。
まず前置きは省略し、すぐに本論に入ります。
始めに取り扱うのは、
色視覚のクオリアで夫妻は「質空間」という概念で話を進めます。クオリアの存在する空間概念でしょうか。
色の「質空間」とは
多数の被験者に、何百もの色見本の間の相対的な類似性と中間性の関係を体系的に探求し、それらの関係について直感的な判断を下してもらい、3次元色空間の特定の場所に位置付け、作成したものです。
いわゆる色立体(下、参照)といわれるようなものです。
赤、ピンク、白、黒、緑、黄、紫・・・・を、ある定義をもとに3D空間配置した物「質空間」を作り上げ、これと同じ空間構造を脳内細胞活動に見出た時、クオリアが脳の活動で作り出されていると考えるのです。
「なぜなら、それはほかの内的クオリアに対する諸関係からも、また外敵刺激に対する問題含みの因果的結合からも独立しているからである。」
と理由を用意します。
色クオリアは外のクオリア例えば”痛い”とは独立しているから、色クオリア単独で考えてよい、と言っています。
心理学的実験により集められたデータからの結論と、
「色覚に関する神経解剖学的ないし神経生理学的理論としていまのところ「最良の理論」、いわゆる「反対色処理の理論」を使った」反対色細胞実験の結果得られた結論が同じになったというのです。
つまり。
「コード化枠組みによって生み出された色の全体的な位置関係(細胞実験によるもの)は、精神物理学的に決定された質空間において見出される位置関係(心理学的実験によるもの)とまったく同じだということである。」
と言い、
また、
「人間の色空間の神経生物的再構成が進んで、このような詳細なレベルの事実すらも説明できるようになったとすれば、われわれの内的クオリアは確かに外側膝状核にある反対色細胞のコード化ベクトルと同一である」
となるのです。
以上の様に、
クオリアは脳内神経細胞活動と観測面において同じである、だから他のクオリアも同様に細胞活動と対応しているのだろうと結論付けられます。
そして、この結論を基に、色感覚異常者の症状、スペクトルの逆転にまで話は進みますが、ここでは本筋ではないと考え省きます。
色立体、反対色色理論は以下のページにあります。
http://www.nanisama.com/color/system/Ostwalt/
そこで、次には、
「そもそも何かが意識に現れるのは何ゆえであり、またいかにしてなのだろうか」という本論に入ります。
「この問題はもはやかつてのような手のつけられない謎ではない」として、最近のニューラルネットワークを用い説明を進めます。
ニューラルネットワークとは人間の脳神経細胞の接続を模倣し、情報処理をしようとする理論です。
夫妻はこのネットワークの2種類について論を進めます。勿論脳内のネットワークはこのような簡単なものではありませんので、夫妻の主張がどの程度正しいかわかりません。
一つはフィードフォーワード型で他は回帰ネットワーク型です。
フィードフォーワード型は
信号の流れが一方向で丁度一列に並んだ将棋倒しのようなもの
回帰ネットワーク型は
出力信号を入力部にもどし、入力信号と混ぜ合わされた物を入力信号とします。
うまい例えが見つかりませんが、電子回路では普通に使われている技術です。
夫妻は二つ目の回帰ネットワークの魅力を強調されます。
その魅力としては、
学習や記憶、知覚、運動制御などの現象を理解する強力な理論的手段である事
短期記憶を提供できる事
(回帰ループで、記憶回路が作れる事は工学的に了解されています。)
入力刺激なしで認知活動が可能な事
深い眠りは回帰ループを一時停止の状態にした時の状態
異なる感覚刺激情報をある共通のニューロン群に伝え、情報の統合を行なえる事
(つまり、入力信号を混ぜ合わせ特定のニューロン群に渡せる)
等々
それで最後の結論は、
「したがって、答えは、
ある表象が現在の意識の要素であるのは、その表象が脳のある適当な中心的位置を占める回帰システム、つまり、複数の感覚様相を統合し、運動装置の振る舞いを制御するシステムのなかの焦点となるニューロン群において生じる活性化ベクトルである。
要するに、感覚的クオリアは活性化ベクトルにほかならない。」
以上が、本論文の骨子です。
結論は
感覚的クオリアは活性化ベクトルにほかならない。
という事です。
それじゃ“活性化ベクトルとは何か”の説明がありません。
ただ情報の統合の部分で
「この共通のニューロン群の活性化ベクトルは多重様相的情報を担う」と書かれていること、
前半の色立体を作る場合に、色ベクトルとして橙ベクトル、ピンクベクトル、濃緑ベクトルとかの表現が使われていること、
この場合の、ベクトルとは、各神経細胞の活動レベルを何らかの方法で観測し、その結果を並べた列と考えられます。
従って細胞の数が増えれば列の長くなります。列の長さが次元と言われているものです。
すると感覚的クオリアは活性化ベクトルにほかならない場合の
活性化ベクトルとは“感覚的クオリアが発生した場合に活動するニューロン群の活動状態”と考えられます。
つまり、赤色クオリアが生じるとは
赤色クオリアの関係する神経細胞の活動がある状態になった時
という事になります。
やはりこの時代での結論は、以上のような結論にしかならなかったのでしょうか。