去年の暮れのテレビ番組
超音波機械の話。
最近は、超音波イメージング機器が大変進歩した結果
解像度が向上したとの事、きれいに見えるようになりました。
母胎内の女の子、男の子の違いも簡単に見えます。
私も十数年前、超音波機器の開発に携わっていましたから、
とても興味深く見ていました。
暮れのテレビ番組では超音波診断の結果、出産前で胎児に異常が見つかった場合の対応についての番組でした。異常が治療できればいいのですが、そうでない場合もあります。
以前なら解像度も高くないので見落とされていた病状が簡単に診断されるのです。
異常が見られた母親、家族の気持ちを思うに、心に余りあります。
私もそのような状況の、そばにいたことがありました。
お医者さんが“ご家族と相談して下さい”と言っていたのを覚えています。
私は、当然何もいえません。
産むか産まないかの極限での判断、胸が痛みます。
きれいに見えるのはいいのですが、その反対の事もあるのです。
話は変わって、いつもの脳関係の本
「遺伝子が明かす脳と心のからくり」石浦章一 羊土社 2004年
にあるコラム記事です。
女性ホルモンであるエストロゲンの血中濃度と、英単語を覚えるテストの結果の関係を見てびっくりしたという事です。
血中濃度が低いと覚えが悪くなるらしいのです。つまりかなり相関が高かったのでしょうね。
それで、石浦先生(東京大学教授)は、
この事実を発見された先生に「女の人と言うのはホルモンの量でもの覚えが違うんだったら、普通の性周期でも違うのでは無いのでは?」と質問したそうです。
で、それを聞いたら「まだその実験はやってないからわかりません」と言ったそうです。
その石浦先生の最後の言葉
「先生の理論がもし正しくて、これを新聞に発表したらどんな影響があるかわかるんですか。そしたら日本中の半数の人たちを敵に回すことになりますよ、いいんですか、それで。」
先生の結論
「だって、こんなことがもし発表されたら大変なんですよ。エストロゲン補充で体調がよくなることはよく知られているんですけれどね。知能までがよくなる事が本当だったら、これは大問題ですよ。そしたら試験前にエストロゲン注射する人が出てくるわけです。そんなことがあったら大変ですよ。ですからこういう研究は非常に慎重に行なわなければいけないので、この研究はなかなか難しいんです。」
この様な先生の判断、大衆迎合的、ことなかれ主義的判断は科学の発展を歪めます。世の中の半分、多分女性を敵に回すという意味がわかりません。事実はそういう物ではないはずですから。
当たり前のことですが、科学の発展と社会的是非は分けて考えるべきです。科学の進展に水を注したらいけないのです。
多分、石浦先生は、“遺伝子操作”、“人クローン実験”を想定されていたのでしょうか。
科学の発展が“人とは何かの原点”を揺るがしかねない状況を。
科学は以上のような宿命を持っています。
かつて昔、ノーベルの火薬、オッペンハイムの原子爆弾等、
進歩・発展と裏表の問題が密着してあるのです。
現代における問題は深刻で、いわゆる科学倫理問題。
先ほどのエストロゲン注射などは、どうだっていい問題だと思われますし、
超音波機器の発展、出産前診断技術の向上、胚性幹細胞等の実験などは望むべきものであるであろうし、
人クローン実験も行なわれてもしかたがないかも知れません。
いずれ、誰かがやるだろうから。
でもその前に、
これらの、評価・価値判断・是非をどうすべきかのガイドラインが喫緊に必要です。科学が進歩しても、その結果に対し誰も是非の判断が出来ない場合があるのだから、
国レベル、世界的レベルでのコンセンサスが必要になってきます。
皆わかっているけれど、なかなか進んでいないようです、
確かそのような学会もあったようですが、
話が大きくなりすぎました。
ここまでいかなくても、実際出産前検診の結果には切実なものがあります。
究極は個人の判断に任せるべきであるし、
そのための情報提供、サポート体制(国、NPO等)、は最低欠かせません。
私が心配するほどの事なく、多分それらの組織は活発に活動していると思いますが。
以上のように
科学の進歩には、人類のサポートが必要なのです。
反対に、科学は人類を救えるのです。