ワインは一年に一回しか仕込みができない点が、ウイスキーと異なる。

つまり一人のヴィニュロンが、自らが責任者となり仕込みを担当できる数は限られているのだ。

しかし南半球で仕込みをすることで、その貴重な機会を倍増させることができる。

そうして経験を増やすヴィニュロンがいるが、フィリップ・コランもそのうちの一人だろう。


フィリップ・コランは、シャサーニュ・モンラッシェに拠点を置くドメーヌの主だ。

先代で父であるコラン・ドレジェの当主、ミシェル・コランの後を弟のブリュノと畑を分けあって継いだ。

それが2003年の事で、2004年からドメーヌ・フィリップ・コランとしてワインをつくっている。

名手といわれた父は息子たちに経験を積ませるため早めの引退を決断したという。


その後フィリップ・コランは、南半球の南アフリカでもワイン作りを始める。

違う土地での仕込みでの気付きや、単純に回数が増えた事で更に磨きをかけたのだろう。

2017ヴィンテージを飲んで、フィリップ・コランは円熟期を迎えていると感じた。


素晴らしいワインを楽しみながらも、残念だがそれほど長くはこの円熟したワインを楽しめないのでは?という予感がした。

このレベルに達したら父同様、早い段階で後進に道を譲るのではないか、という思いがあったからだ。


その予感は的中し、今後シャサーニュ・モンラッシェのドメーヌの畑は、息子であるシモンに大部分を任せるという。

そして自身は南アフリカのトピアリー・ワインズに注力していく方針のようだ。


自身でブルゴーニュでの小規模の仕込みも行うようだが、その量は激減すると予想される。

思えば父であるミシェルも引き継いだ後も、極少量自身の仕込みで、コラン・ドレジェのラベルのワインを出していた。

それに倣うのではないだろうか。


私がお世話になっているインポーターは、フィリップ・コランも正規で扱っていて、その縁で安くワインを譲ってもらっていた。

しかし、 代替わりがきっかけなのかエージェントを変更したため、今後は買えなくなるらしい。

ということで最後になるであろうフィリップ・コランのワインをいくつか譲ってもらった。

そのうちの1つが、このブルゴーニュ・シャルドネ の2020ヴィンテージ だ。


フィリップ・コランのエントリーキュヴェの一つで、税前3,000円強と今の相場でもかなり割安感がある。

フィリップ・コランの2020ヴィンテージは飲んでいなかったのもあり、届いてすぐのものを1本開栓し自宅でテイスティングしてみた。


なお、ヴィンテージは2020で輸入元は大雅、グラスはシュトルツル・ラウジッツのクアトロフィル ホワイトワインを使用した。



【テイスティング】

アプリコットやホワイトグレープフルーツ、洋梨の果実味、果実感は酸味がしっかりあり黄色っぽい印象。

硬質なミネラル、樽が効いていてバニラの甘味、スイカズラの花、無塩の溶けたバター。

少しトロピカル感があり、ホワイトグレープフルーツのワタ、黄桃浸けのシロップ、少しスモーキー、グリーンペッパー様のスパイス。


複雑味はないが、プティ・シャサーニュ・モンラッシェというようなミネラル感と果実味のあるシャルドネ。

少し樽が効いているように感じるのは、ブドウが完熟していて樽に負けているからか。

コート・ド・ボーヌのシャルドネの魅力に溢れたワインで、価格に対する満足度は非常に高い。


どこのブドウを使っているか気になったため確認したら、シャサーニュ・モンラッシェやサントーバンのシャルドネとの事。

このクラスのワインで地域や作り手の特色が良く分かるし、気軽に楽しめるブルゴーニュのシャルドネ。

ブルゴーニュを初めて飲む人にも、ある程度飲んでいる人も充分に楽しめる魅力がある。

これが3,000円くらいで普通に飲めるのは、素晴らしい事だと思うし、名門一族の矜持を感じる。


ドメーヌ・フィリップ・コランの畑は、今後はシモン・コランに引き継がれ、ドメーヌの名前も変わって出てくるのかもしれない。

しかし、コラン・ドレジェから続く良心的な路線は継承してほしいものだ。

そう感じるフィリップ・コランのブルゴーニュ・シャルドネだ。


【Verygood!】