ラストドラムのテイスティング、今回はスプリングバンクの1997、マデイラウッドだ。

2019年3月に開栓しているようなので、約5年2ヶ月で飲み切りとなった。


このウッドエクスプレッションシリーズは、スプリングバンクで行われた実験的な樽をボトリングしたシリーズだ。

今ではポピュラーとなっているラムやマデイラ、赤ワインの樽などが、スプリングバンクにどう影響を与えるかが味わえる。


今やウッドフィニッシュは市民権を得ているが、15年ほど前はまだ色物扱いだった印象がある。

パイオニアだったのはグレンモーレンジやバルヴェニーだが、今やさらに進化し様々な蒸留所で行われている。


スプリングバンクでは伝統的なシェリーやバーボンの空き樽以外では、ラムやマデイラ、ポートは特に相性がよいと思う。

それらは最近でも単体でボトリングされていて、2020年にボトリングされたマデイラウッドの17年などは、10万円を越える高値で取引されている。

しかし同じマデイラ樽のこのボトルは、当時5,000円強で酒屋に長らく並んでいた。

これはその在庫を買ったものではなかったかと記憶している。


スペックとしては17年より短い11年熟成だが、カスクストレングスでヴィンテージも1997と、マデイラの2002ヴィンテージよりも古い。

にもかかわらず5,000円と100,000円という値段差が、このシリーズの不人気ぶりを物語っている。

実際酒屋巡りをすると、少し古いものが残っている酒屋では、よくこのシリーズのボトルが並んでいるのを見かけた。


アウトターンが9,090本で、今だと瞬殺される本数ではないだろうか。

当時のシングルモルトの人気がその位だったのもあるし、90年代蒸溜のスプリングバンクは人気がなかったのもあるだろう。


そんな中私はこれ幸いと、大量に90年代のスプリングバンクを買った。

今や価格の高騰が進み買えなくなってしまったが、お陰で家で気軽に飲める程度には在庫はある。

いろいろなスプリングバンクを開けて飲みたいため、まだ変化がありそうな気はするがこのボトルを飲み切った。

じっくりと味わったそのラストドラムのテイスティングを記載する。


【テイスティング】

ブリニーな潮風、埃っぽいウェアハウスのニュアンス、ほんのりムスクのような香水、少し焦げ臭する仏壇のお香、もっさりしたアモンティリャードシェリー。

強めのアルコールのアタックがあり、90年代蒸溜らしい二枚貝のエキス、イチゴキャンディー、甘味のあるアオハタのイチゴジャム、マラスキーノチェリー、濃い味の麦のクリーム。

ドライな麦の厚み、モカチョコレート、ドライジン、緑のスパイスの苦味、やや強めのピートスモーク、ジンジャーシロップ。


甘味とドライさが共存しているカスクストレングスのスプリングバンク。

少し澱が出ていて、味わい的にもフィルタリングで旨味が取り除かれていないのがよくわかる。

また、ボトリングから15年、開栓から5年でも骨格が崩れない1997ヴィンテージのポテンシャルの高さが表れている。

  

個人的には、サルファやパフュームというニュアンスはギリギリ表に出ないラインで留まっていると思う。

だが、状態などのタイミングや、個人的な耐性の弱さによっては拾う人もいるだろう。

またドライさとプルーフ感が強く、磯感の強さも相まってボトリング直後は評価されなかったのもわかる。

旨味の強いハイプルーフのモルトウイスキーは、人を選ぶ酒だと思う。


しかし、スプリングバンクらしいイチゴやジャム感の片鱗は拾えるし、時間経過でそれが出てくるのもこの年代のスプリングバンクの特徴だと思う。

とはいえ早飲みでは、よほどの経験がないとこのポテンシャルを拾い切るのは難しい。


ボトリングから15年、開栓から5年でようやくポテンシャルが分かるのは、ワインに例えるとシャトー・オーブリオンのビッグヴィンテージのようなものだろうか。

少なくとも私はボトリング直後にオーブリオンを飲んでも、そのポテンシャルを拾えない。


しかし、将来うまくなることが約束されているのさえ拾えれば、買って寝かしておく楽しみは味わえる。

特にスプリングバンクは、そんなセラーリングの楽しみが味わえる代表的なウイスキーだと思う。

それを改めて感じさせてくれる、興味深いスプリングバンクのマデイラウッドだ。


【Verygood!!】