ワインを飲み始めた頃、なかなかボルドーにビンと来ない時期があった。


当時ブルゴーニュは、ある程度知られた生産者のドメーヌもののブルゴーニュ・ルージュが、3,000円台で手に入った。

特に果実味の強い2015ヴィンテージなどは、もう少し安いネゴシアンものでも十分にピノ・ノワールの魅力がわかった。


また、ローヌはコート・デュ・ローヌであれば2,000円を切っていたし、身近に買えるものでも7~8年前のヴィンテージが普通に流通。

少し時間が経たないとわからないシラーやグルナッシュの魅力も、わかりやすく感じることができた。


対してボルドーは少し価格が高く、3,000円台の価格帯では格付外の少し古いものが狙い目とされていた。

また、若いもので安いものはメルロー比率高めのものか、カベルネ・ソーヴィニヨン比率が高いものは若くてビーマン系の野菜臭が強いものが多い。 

そういう背景もあり、なかなかボルドーは魅力がわかりづらかった。

カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンの方が分かりやすく感じたものだ。


今にして思うとワインbarで出されたボルドーも、ボルドー初心者向けというより、経験者向けのものが多かったように思う。

この価格で十分に偉大なボルドーのニュアンスが感じられる、というものがメインだった。

また、少し熟成したワインというエレメントが付加されていて、初心者には難しい。


当時はブルゴーニュのグラン・クリュより、五大シャトーのワインの方が高かったし、熟成させたものは特にその傾向が顕著だった。

偉大なボルドーのニュアンス、というのがそもそもわからないため、魅力に気づけないのは当たり前かもしれない。


そんな中barで出してもらってピンと来たのが、格付けシャトー、カントメルルだった。

カントメルルは格付け5級ながら、3級に匹敵する実力をもつと言われるらしい。

しかし一番の魅力は、若いヴィンテージを早飲みしても安心の、安定感だと思う。

今飲むとややボディが薄いと感じるが、当時は非常にわかりやすかった。

そして、私がボルドーを好きになる事を決定づけたのが、同じく格付けシャトーのラグランジュだった。


シャトー・ラグランジュは1983年にサントリーが買収したため、日本人には馴染みが深いシャトーではないか。

ボルドーはメドックの銘醸地である、サン・ジュリアンに位置する格付け三級の実力派だ。

なんだ三級か、と思う人もいるかもしれないが、ボルドーの生産者は数千とも万を越えるとも言われる。

格付けシャトーはそのトップに君臨する61の生産者達だし、ほとんどが格付けの名に恥じないよう資本も投下されている。

私の体験的には初心者の時には、格付シャトーの中から選ぶのが、ボルドーの魅力がわかりやすいと思う。


ラグランジュは2015、2016を気に入り愛飲していて、その頃にボルドーのグレートヴィンテージである2010も買った。

記録をみると約3年前で、価格も新しいヴィンテージと比べても大して高くなかった。

約3年自宅でセラーリングしているが、2010は堅牢でまだまだ熟成する年だとは思う。

しかし飲んだ記憶がないため、この段階で一度飲んで気に入ったなら買い足せるし、と栓を抜いた。


なお、輸入元はファインズ、ヴィンテージは前述したが2010。

グラスはシュトルツル・ラウジッツのギブリ ボルドー22ozを使用した。


【テイスティング】

塩水に浸したプラム、ダークチェリー、焼いた杉の高木、しっかりしたタンニン。

梅肉エキス、古い万年筆のインク、熟成した葉巻、こなれたレザージャケット。

ボディは厚く、ドライアプリコットやレーズン、細かく挽いた黒コショウ、ヨードやスモーク、ほんのりスティルトンの酸味やカビ。


ほどよく熟成を始めたボルドーで、ビッグヴィンテージの厚みとサン・ジュリアンらしさを兼ね備えている。

果実味も多彩で酸も美しく、さすがに完熟感があり未熟な野菜臭はない。

バランスがよくかつ威厳を備えつつあるラグランジュ。

今同じものを買おうとすると2万円ぐらいするため、悩ましいがその値段なら若いヴィンテージを買ってセラーリングしようと思う。

ラグランジュは試飲会で毎年試しているが、どのヴィンテージであっても大きくハズれることはない。


サン・ジュリアンには時に1級を上回ると言われるものも含め、実力派の2級シャトーが軒を連ねる。

しかしそんな中にあっても、ラグランジュは確かな存在感を放っている。

それを再認識したグレートヴィンテージの、飲み頃に入りつつある、素晴らしいラグランジュだ。


【Verygood!!!】