家で開栓しすぎたボトルを空にすることを目的にしている、ラストドラム。

ウイスキーはちびちび長く飲めるのがいいところではあるが、調子に乗って開けすぎるとなかなか減らないというデメリットもある。


私の場合家で注ぐ一杯は45ml程度とまあまあ多い方だが、いろいろな種類を飲むからか、なかなか減らない。

特に家でワインを飲むようになり、1本開けた後に食後酒として飲むとなると飲んでも2~3杯位だ。

そのため、開けて何年も経っているボトルも少なくない。

それらを消費していかないと置き場所もないし、次のボトルも空けられない。

減っているものや変化が安定したものを順に空けていこうと思う。


今回はスコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ(SMWS)がボトリングした、グレンファークラスだ。

SMWSは元はスコットランドはエディンバラの港町、リースで設立された愛好家の団体だった。

1983年設立との事なので約40年の間に拡大し、今では20ヵ国で38,000人も会員がいるらしい。


SMWSのポリシーは、一つの樽を加水せず樽出しの度数でボトリングするという事、そしてラベルにどこの蒸溜所の樽かを記載しないという事だろう。

代わりに蒸溜所コードとカスクNo.が記載された、共通のラベルが貼られる。

先入観なくウイスキーを味わってほしい、という趣旨のようだ。

もっとも、蒸溜所コードは公表されているため、知りたい人は簡単にどこの蒸溜所かは分かる。


このボトルは蒸溜所コードが1、カスクNo.が73なので、No.1.73という番号と、『The perfect digestif(完全なる食後酒)』というタイトルが記載されている。

1はSMWSが初めて樽を購入した蒸溜所、すなわちグレンファークラスを表している。


蒸溜は1970年10月、瓶詰めが1997年5月の約26年7ヶ月熟成。

アルコール度数は55.7%のカスクストレングスで、アウトターンは199本で熟成樽の記載はない。

しかし、明らかにシェリーカスクの味わいだし、グレンファークラスだからまず間違いないだろう。

素晴らしいウイスキーで、今や貴重な54年前、1970年の蒸溜だ。

飲みきってしまうのは惜しいが、最初にblogに掲載してから約5年3ヶ月が経過している。

ラストドラム前にじっくりと飲みテイスティングをし、いよいよ最後の一杯を飲みきろうと思う。


【テイスティング】

オレンジのコンフィチュール、黒糖の甘味、香り高いドライフィグ、古いマホガニーのウッディネス。

熟成したボルドー左岸サンジュリアンのグランヴァン、スモーキーなコーヒー、ハイプルーフの厚み、しっかりと噛み応えのある麦感。

炭を磨った墨汁、ダークチョコレート、古く大きな岩のミネラル、苦味のあるカラメル。

香木感のある古い仏壇の線香、オールドシェリー、溶け込んで一体になった山椒や黒七味のスパイス感。

シェリーカスクでウッディながら、スパイシーな要素は溶け込んでいて非常に滑らかで、力強く余韻は非常に長く続く。


バニラ感は薄く、古木のヨーロピアンオークのニュアンスが強い。

また、開栓時のテイスティングを見直してみても、飲んだ体感的にもシェリー感は増している。

フルーティーさもあるが、クラシカルなシェリーカスクらしさが勝っていて、今のシェリー樽とは趣がかなり異なる。


先のカバランと間をあけずに飲んだが、当たり前だが樽の次元が違う。

熟成年や蒸溜年が違うため比べる方がおかしい、と思う人が多いかもしれない。

しかし、買ったのは数年しか違わないのに、実は買った値段には大差がないのだ。

このボトルの裏の値札には、19,800円という値札が貼られている。


このボトルを買ったのは、目白にある世界一の小売店を獲得したこともある酒屋、田中屋だ。

以前は目白田中屋では、このような古いボトルがたまに並べられていて、タイミングが合えば買えた。

もし今、このボトルが19,800円で棚に並んでいたら、瞬殺されるのではないか。


しかし当時はすぐに売れるわけではなく、ものによっては棚にある程度の期間並んでいた。

今にして思うと即売れないような、絶妙な値付けだったのだと思う。

また転売しても高値はつかず、飲む目的で買う人しかいなかった。

しかも田中屋は当時は現金払いのみで、店頭に足を運ばないと買えないのもあっただろう。


当時私は職場が目白から近かったため、仕事の合間を縫って足しげく田中屋に通い、今となっては貴重なボトルをいくつも買った。

今もたまに田中屋を覗くが、比較的最近飲み始めた人が見ると特に、とても楽しい酒屋だと思う。


そんな田中屋のお陰で、縁あってうちに来たこのファークラス。

オフィシャルの王道ど真ん中とは少しベクトルが違うが、とても楽しませてもらった。

古木感溢れる、素晴らしいシェリーカスクのウイスキー。

そしてSMWSらしい樽の個性に溢れた、『完全なる食後酒』というタイトルに恥じないグレンファークラスだ。


【Verygood/Excellent!!!】