ワインの魅力の一つに、自分のセラーで熟成させることがあると思う。


ウイスキーは樽で熟成され、ボトリングされた時点で熟成は止まる。

その後瓶内でゆっくり変化はしていくが、熟成とは違う。

それに対して、ワインはいわば自分のセラーがウイスキーのウェアハウスみたいなものだ。

熟成の具合や飲み頃を見計らい、自ら開けて味を見る。

これは本当に楽しい。

それゆえ自宅で約300本のワインを熟成させ、各社のセラーでも数百本を熟成させている。


ワインで熟成といえば、赤ワインのイメージが強いかもしれない。

しかしシャンパーニュも、そして白ワインも美しく熟成する。

両者とも綺麗に熟成したものにあたると本当にうまく、神々が飲むような味だと感じるものがある。

しかし、熟成に耐えられるものはある程度限られる。

白ワインなら熟成させておいしいのは、やはりシャルドネで作られたものだろう。


初めて熟成したシャルドネを飲んだとき、思わず『これ、白ワインですか⁉️』と聞いた。

色は白やゴールドを通り越し、アンバーに近い。

味わいもほんのりシェリーの味や香りがする。

それが強すぎると、私はあまり得意ではなくなるのだが、そうなったものを好む人もたくさんいる。


少し熟成したシャルドネが飲みたくなり、手に取ったこのワインも開栓しグラスに注ぐと、アンバーに近い色合いになっていた。


これはネゴシアンのニコラ・ポテルが詰めた、シュサーニュ・モンラッシェのプルミエ・クリュ(一級畑)、モルジョの2008ヴィンテージだ。


ニコラ・ポテルは、ヴォルネイ出身のヴィニュロン、ニコラ・ポテル氏が立ち上げたネゴシアン(ネゴス)だ。

栽培から醸造までを手掛けるドメーヌに対し、ネゴシアンは買いブドウや果汁でワインを作ったり、他者が作り出来上がったワインを買ったりする。

ウイスキーでいうとボトラーズ(独立瓶詰業者)みたいなものだろうか。

ドメーヌに比べると価格も安く、選んだ人が目利きだと大当たりすることもあり、ワインの世界に奥行きを与えている。


ニコラ・ポテル氏はドメーヌ・プス・ドールのジャラール・ポテル氏の息子で、16歳でボーヌの醸造学校を卒業した、いわばワイン界のサラブレッドだ。

フランスの名だたるドメーヌで修行し、その後オーストラリアやカリフォルニアを渡り歩き、30歳手前でネゴシアンを立ち上げる。

ネゴシアンといっても買いブドウからワインを作る、ドメーヌに限りなく近いスタイルを取っていたようだ。


実はその前に父が急逝したが、ドメーヌ・プス・ドールは引き継がずに売却してしまっているらしい。

自らが立ち上げたニコラ・ポテルは短期間で評価を高め、ブルゴーニュで確固たる地位を築いたという。

しかし、2004年にはニコラ・ポテルを親会社に売却し、自らはドメーヌ・ド・ベレーヌを立ち上げる。

さらに2008年にはニコラ・ポテルから去り、現在はドメーヌ・ド・ベレーヌ、ネゴシアンのロッシュ・ド・ベレーヌで、自らのワイン道を極めんとしている。

親が引いたレールの上ではなく、自分の名前で自分がやりたいことをやる、頑固な自由人を想像してしまうが、実際はどんな人なのだろうか。


そのニコラ・ポテルが去ってからも、メゾン・ニコラ・ポテルはそのままの名前でリリースを続けている。

このワインはニコラ・ポテルが自ら立ち上げて売却した会社を辞した頃、2008年のものだ。

どういう素性のボトルかは、検索しても記録がなかった。


しかし、ブルゴーニュきってのシャルドネの銘醸地、シャサーニュ・モンラッシェの1級畑のワイン。

つまり熟成には耐えられるスペックだ。

とはいえ、ネゴスものだし果たしてどう熟成しているのだろう。

そう思ったため開栓し、テイスティングしてみた。


なお輸入元は土浦鈴木屋で、約4年前に購入し、ホームセラーで約4年間セラーリングした。

テイスティングにあたり、グラスは無銘の大ぶりな白ワイングラスを使用した。


【テイスティング】

熟したネーブルオレンジやピンクグレープフルーツ様の柑橘、粘性のある果肉とその皮の仄かな苦味がある。

静謐で硬質なミネラル柔らかく砕けていて、酸味のある生キャラメル香、ほんのりアモンティリャードシェリー。

溶かしたバター、オレンジマーマレード、オイリーなカシューナッツを煎ったニュアンス、キノコや枯れ葉のような熟成の香りは非常に美しい。


ベイクドチーズのタルト、酸味がありフレッシュな枝付きレーズン、レモングラス様のハーブ、埃っぽいウェアハウスの熟成香。


熟成したシャルドネの複雑味や多彩な香味がありながら、ワインの骨格は熟成に負けずに維持されている。

もう少しならホームセラーの熟成にも耐えられそうだが、個人的には飲み頃だと思う。

まさに熟成したシャルドネの魅力にあふれたシャサーニュ・モンラッシェ。


ニコラ・ポテルのワインはスペックの割に安かったため、たまに買って飲む。

熟成したもので記憶にあるのは、2012ヴィンテージのシャブリ 1erクリュのモンマンだ。

しかし、ヴィンテージ的には4年、飲んだ時期を考えたら6年は若かったはずなのに、シェリー香が強く支配的だった。

そのワインは安かったので都合3本飲んだが、どれも似たような状況だった。

状態ももちろん重要だが、やはり畑の格でどのくらいの熟成に耐えられるかが変わるのだろう。


記録によると4年前に7,000円弱で買っているようだが、今となっては安く感じる熟成ワイン。

私はフレッシュなシャルドネも大好きだし、合わせる料理によってはそちらの方がマッチすると考えている。

しかしこういうのを飲むと、熟成に耐えるワインを今飲むのはもったいないと感じてしまう。

特に身近なリビングにあるセラーのものは、つい早く飲んでしまいがちだ。

いっそ目につかないエイジングセラーに送って熟成を待とうか。

そう思うくらい熟成シャルドネの魅力に溢れた、ニコラ・ポテルのモルジョだ。


【Verygood/Excellent!!】