昨日、荼毘に付された師匠に感謝を述べてきた。

ご家族にも初めて会えたが、いっぺんに好きになるような素敵な人達だった。

集まる人々も素敵な人ばかりで、故人の人柄がよく表れていた。


1月29日に病に倒れたことを知り、1月31日に病状を弟子達に聞いた。

2月3日に訃報を知り、2月6日に末期の酒を託した。

そして、2月8日に最後に会ってきた。

あの大きな身体が小さな箱に収まっている姿は、さすがに込み上げるものがあったが、最後に一緒に飲む事ができた。

師匠が仕入れたウイスキー達をしこたま飲んだ。


そして家に帰り、まるでこの時のために残していたかのような運命の、最後の1ショットを飲んだ。

ファイナルエディション、最終版と銘打たれた、師匠と同じ年に生まれた酒だ。

人はその年を『奇跡のヴィンテージ』と呼ぶ。

1964年蒸溜、1995年に瓶詰めされ、もはや伝説となっているブラックボウモアだ。


しかし、ファイナルエディションの後も、実はブラックボウモアは2度ボトリングされている。

40.5%で2007にボトリングされた42年熟成、そしてラストカスクと銘打たれた40.9%の2016詰の50年熟成だ。

なんでも、もう無いと思っていたが、熟成庫の奥から見つかったらしい。

いや、最後じゃなかったんかい!と突っ込みたくなる。

蓮村さんもブラックボウモアのように、実は最後じゃなかった、となればどれだけ良かっただろうか。

しかし、そうはいかないのが現実だ。


この酒を飲んで一つの区切りをつけよう、そう思い小瓶で保管していたこのウイスキーを味わった。



【テイスティング】

黒糖の甘味、パッションフルーツやグァバなどの赤い南国果実、伽羅のような香木、黒ブドウの果汁。

滑らかなタンニン、古いウェアハウスのウッディネス、そこに満ち溢れた潮の香り、アイラの大地。

オールドピート、ピンクグレープフルーツのワタ、コーヒー、長い熟成を経たトゥニーポート。

舌に染み入るマンゴーの果実味、フェノール、ダークチョコレート、極上のオロロソシェリー。

トロピカルフルーツ、コーヒー、ヨードが一つに集約され、長く長く長く永遠に続くかのような余韻。

きっと明日の朝、この香りで目覚めることだろう。


この酒は人に似ている。

太陽の輝きを、吹きすさぶテンペストの厳しさを、幾度となく経験しただろう。

さながら、栄光と挫折のように。

そして苦難を乗り越えたからこそ得た優しさ、深い温かみ。

永い年月と素性の確かさが生んだ、二度と現れない奇跡。

それは私にとってのモルト侍そのものだ

できることならこの余韻が消えないでほしい。


そしてこの酒の味を忘れないように、蓮村さんの事を命ある限り忘れないだろう。

この酒に出会えたことを感謝するように、モルト侍に出会えたことを感謝したい。

そして、区切りをつけて顔を上げて歩いていこう。


時をおいて開かれるだろうお別れの会では、盛大に送り出したい。

その時はどんなウイスキーで送り出そうか。