山梨県は日本ワイン発祥の地といわれる。

今から147年前の1877年、日本初の民間ワインが山梨県勝沼に設立された。

その当時から日本固有の品種である、甲州種でワイン醸造が始まったそうだ。


甲州は薄い藤色の果皮を持つ白ブドウ品種で、食用としても使われる。

ヨーロッパのワインが好きな人からすると、イロモノ感があるのかもしれない。

しかし、今やそんなことはなく、世界的な評価も高くなっている。

なにより日本の食事には合わせやすいし、価格も手頃だ。

勝沼は新宿から高速バスや直通の特急を使えば約1時間半と、訪れやすい地域でもある。

そのため、勝沼のワイナリー巡りを何度もしている私にとって、馴染みもあり応援もしている。


そんな甲州のワインを世界的なレベルに押し上げたといわれるのが、グレイスワインだ。

このワイナリーのトップキュヴェは、世界的コンペティションで金賞を何度も受賞した三澤甲州(旧キュヴェ三澤明野甲州)。

また、グレイスにはシャルドネでつくるキュヴェ三澤ブランというワインもある。

だが、個人的にはこのワイナリーは、甲州でつくるワインがやはりピンと来る。


そして、グレイスワインで個人的に一番気に入っているのキュヴェが、甲州鳥井平畑、プライベートリザーヴだ。

鳥井平(とりいびら)は勝沼の中でも標高450~500mに位置する、日照のいい最上のテロワールを持つといわれる地区だ。

いわば、甲州のグラン・クリュとも言うべき畑なのだが、このプライベート・リザーヴはさらに最上の畑から厳選したブドウを使用する。


グレイスワインの甲州には様々なキュヴェがある。

その中にあってこのキュヴェは、酸が鋭すぎず柔らかい上に、樽感がほとんどなく繊細で和のニュアンスを伴う。

価格は税前で4,000円前後と、甲州でつくるワインとしては少し高く感じるかもしれない。

しかし、同価格帯のワインの中でも十分すぎるほどの個性を持ち、和食にも合わせやすい。


トップキュヴェの三澤甲州の素晴らしさはもちろん認識している。

しかし値段的にも希少性からも気軽に買えないし、開けるのはシチュエーションを選んでしまう。

その点このキュヴェは味と値段のバランスがよく、開けるのに躊躇せず楽しめる。

この価格帯でも、グレイスワインのトップキュヴェの片鱗を充分に味わえる。

そのお気に入りのワインの2022ヴィンテージを購入、自宅で開栓し、テイスティングしてみた。


なお、グラスは大ぶりのホワイトワイン用のグラスで、すっきりとした酸をより感じられるようにサーブした。


【テイスティング】

八朔や甘夏の果肉やワタ、小石をなめたようなミネラル感、白や緑のペッパー様のスパイス、樽感は薄くピュアな果実味が出ている。

青リンゴの果汁やその皮、ほんのりと塩をふった固い白桃、生き生きとしたブドウの葉、淡麗で美しく伸びがいい。

洋梨のコンポート、ナチュラルなキャラメル香、本醸造の日本酒、シャブリに通じる秀逸な食中酒。


つくり的にはこってり感を排除し、華やかさも抑えようとしているのだろうが、ナチュラルな甘さや果実味がある。

食中の酒として控えめながら個性を持ち、食材を引き立てるという点に特化していると感じる。

特に繊細な味わいの食事にはこれ以上ないくらい合うし、日本酒の甘さが邪魔だと思う私の嗜好にはピッタリと寄り添う。


もし家の食事で合わせるワインに迷ったらとりあえずこれを選んでいればいいという安心感がある。

餃子にも焼き魚はもちろん、合わせるワインに迷う麻婆豆腐ですら、矛盾せずに包み込む懐の深さが魅力。

どのヴィンテージも差がなくうまいが、2022は特に繊細な甘味とミネラルのバランスがいいように思う。


甲州を使ったいいワインは他にもたくさんあるが、さすがに最上のテロワールと名高い地区だけはある。

こういうワインが脇を固めているからこその、三澤甲州だと思う。

グレイスワインの甲州の素晴らしさを実感できる。


勝沼のワイナリー巡りをしたときに、ワインが大好きで詳しいタクシー運転手さんに当たった事がある。

その運転手さんはグレイスの甲州と、ルミエールが大のお気に入りだと話していた。

地元の人からも愛され、山梨が世界に誇るべき素晴らしいワインだと思う。


甲州のグラン・クリュとも呼ぶべき、上質な食中酒を生み出す鳥居平畑。

日本を代表する甲州のワイン、グレイスの魅力に溢れたワインだ。


【Verygood!!!】