今年は2024年だが、今年から蒸溜されるある蒸溜所の原酒、その熟成後の姿を今から心待ちにしている。
それが東ハイランドにあるグレンギリー蒸溜所だ。
なぜかというと、グレンギリーは2022年に大規模改修を終え、期待しかない二つの要素を復活させたからだ。
一つがフロアモルティングによる自家製麦、そしてもう一つが初溜釜の直火蒸溜だ。
これはつくられるウイスキーに、かなり大きな影響を与えるのではないかと思う。
今のグレンギリーのオーナーは、モリソン・ボウモアを買収したサントリー、それがさらにフォーチュン・ブランドを買収して巨大企業となったビーム・サントリーだ。
その巨大企業が、21世紀も20年を過ぎた時代に、あえて昔ながらの製法を復活させたのは、さすがとしかいいようがない。
世にはアンチサントリーという、1970~80年代のイメージだけでサントリーを悪くいう人がいる。
しかし、40~50年前と今では時代が違いすぎる。
ボウモアやオーヘントッシャンはよくなったし、グレンギリーも然りで、味わえばそれがよくわかる。
私ならそれを聞き齧った知識だけで、悪口を吹聴する人はそれだけでその人の見識を疑う。
話をグレンギリーに戻すが、一般的にはさほど知名度はないかもしれない。
だが、コアなウイスキーファンには熱烈な支持をうける蒸溜所だ。
ハイランドの古豪で、特にモリソン・ボウモアが買収した後、伝説的なウイスキーをいくつも輩出した。
東ハイランドにありながら、ピーティーなウイスキーを生み出した個性溢れる蒸溜所だ。
そのモリソン・ボウモアをサントリーが買収した1995年から、グレンギリー2年間改装のため休止している。
それ以降フロアモルティングをせず、ノンピートにスタイルを変更したと認識していた。
しかし、稲富博士のスコッチノートによると、フロアモルティングを閉鎖したのは2001年の事だという。
https://www.ballantines.ne.jp/scotchnote/127/index.html
しかし、ウイスキーマガジンの記事によると1995年頃が最後とある。
1997~2001のギリーをピンポイントで飲み込んできたわけではないが、体感的には1995位までがピーティーな印象がある。
http://whiskymag.jp/glengarioch_01/
また、1988辺りからはパフュームの影響をボウモアよりは少し早く脱している。
ただ、パフュームが得意ではない私が、1988や1989を飲まずに買うには結構勇気がいる。
したがって、バッファを見込んで1990から買うように習慣付いてしまった。
1988~1995、この辺りのヴィンテージからも名作が出てもなんらおかしくない、個人的にはそう思っていた。
しかし、突き抜けた印象のボトルは今のところ表れていない。
もちろんいくつか印象に残っているボトルはあるが、小粒な印象が否めない。
しかしピーティーなグレンギリーは、私にとって気になるスペックであり続けている。
そのため、ノンピートに切り替わったと知り、残念に思って久しい。
確かに最近リリースされるグレンギリーは、きれいでフルーティーにはなった。
しかし、それでは身震いするようにうまい、かつての伝説級のボトルは現れないと感じている。
そうしたところ、少し前にフロアモルティングと直火焚き蒸溜が復活したと聞いた。
両者とも、手間や費用がかかり、現代のスコッチ製造の現場から姿を消しつつある。
まず直火焚だが、スコットランドでは現在わずか3つだけが採用しているという。
すなわち、スプリングバンクとグレンファークラスの初溜釜、グレンフィディックの第二蒸溜室の3つのみだという。
マッカランも一部そうだという話もあるが、稲富博士はその点にふれていない。
そこにグレンギリーが再挑戦するわけで、この意義は非常に大きい。
体感的には、グレンドロナックが直火焚をやめて、その生産下のボトルは品質が大きく変わったと感じている。
また、ファークラスも以前実験で蒸気による間接蒸溜に変えたら、明らかに質が変わったので採用しなかったらしい。
もちろん各蒸溜所のスピリッツとの相性もあるだろうし、蒸気による間接蒸溜でもいいウイスキーはたくさんある。
しかし、直火焚はトロみとコクが出てくる印象があり、グレンギリーのレジェンダリーなウイスキーを支えた要素ではないかと思う。
日本でも石炭直火の余市、薪直火の静岡、一部で採用している山崎、白州、第二蒸溜所に採用している秩父などがある。
比率としては多く、さすがに我が国はクラフトマンシップを大事にしていると思う。
話が変わるが、だいたい新設したポットスチル(蒸溜釜)にとって、2年くらいは慣らし運転期間なのだろうか。
偶然かもしれないが、設置して3年目位からに、いいヴィンテージが重なる印象がある。
思い出せる範囲だと、ベンリアック、キャパドニック、新クラインリーシュなどだ。
グレンギリーの直火焚用の新スチルは、2022年に設置されたため、2024年は3年目にあたる。
まだまだ先の話だが、これからのグレンギリーが熟成して出てくるのを楽しみに待ちたい。
また、フロアモルティングでは、必要な麦芽の1/3をそれによって賄うという。
同系列の蒸溜所であるボウモアやラフロイグもフロアモルティングを採用している。
そこで研修もできるらしいので、これまた期待が高い。
願わくば、今は数千丁しか余力がないという、蒸溜所の熟成庫も増設してほしい。
そして、アンピートの原酒は碧などのブレンド用に、それ以外は蒸溜所で熟成させてシングルモルト用にできないものか。
さらにいうと、アルコール収量は下がるが、60年代と同じ品種の麦を使えないものか。
それをビームサントリーの調達するいい樽で、素晴らしい熟成をしたものを目利きが選ぶ。
夢はさらに広がるが、21世紀の怪物の出現は遠くないのかもしれない。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240129/09/zgmf-x10a19730730/ea/28/j/o1080108015394966454.jpg?caw=800)