ウイスキーと違い、ワインには明確にヴィンテージの良し悪しが存在するといわれる。
ただ、いい生産者は難しいといわれるヴィンテージでも、そんなに品質が落ちたりしない。
とはいえ、そのヴィンテージの傾向というのは確かに存在し、ここ10年のボルドーでは個人的に一番好きなのが2016ヴィンテージだ。
果実味と長命な堅牢さが両立し、ほどけてきたときのガツンとくる果実味がたまらない。
しかし、いいヴィンテージだと長命ゆえの堅牢さで飲み頃が先になることが多い。
ブルゴーニュに比べたらデキャンタージュのリスクは少ないとはいえ、てきるなら信頼できるプロにサーブをお願いする以外ではそれは避けたい。
そこで重宝するのが、トップシャトーのセカンドラベルのワインだ。
セカンドラベルのワインとは、ファーストラベルのワインで使われなかったブドウを使ってつくられるワインだ。
使うブドウはシャトーによって多少差があるが、ファーストラベルの基準に満たなかったもの、違う区画のもの、若木などだが飲み頃はファーストラベルより早い。
しかも価格も安いため、家で飲むにはもっぱらセカンドラベルになりがちだ。
特にいいヴィンテージでは、セカンドラベルはコストパフォーマンスが高い。
2016年は好きな味なので、いろいろなシャトーを試したが気に入って何本も買ったのが、サン・ジュリアンの2級シャトー、レオヴィル・ラス・カーズのセカンドラベルだ。
レオヴィル・ラス・カーズは1級シャトー、ラフィット・ロートシルトに隣接するサン・ジュリアンのトップシャトーだ。
『サン・ジュリアンの王』とも呼ばれ、格付けの見直しがあったら一級に昇格するであろうシャトーの筆頭として名が挙がる。
2016年のラス・カーズは100点を獲得しているため、当然セカンドラベルのクオリティも高い。
ファーストラベルも買ってはいるが、明らかに今飲むワインではないと思うのでセラーで寝かせてある。
そこでセカンドラベルだが、ラス・カーズのセカンドラベルといえば、このル・プティ・リオン・デュ・マルキ・ド・ラス・カーズだ。
2007年が初ヴィンテージで、2016年は記念すべき10周年のヴィンテージにあたる。
このワインの登場前からリリースがあったクロ・デュ・マルキがセカンドと思われがちだが、今は正式にブティ・リオンがセカンドラベルとなっている。
同じ区画の若木のブドウを使っているという触れ込みで、セパージュがメルロ多めだが、文字通り小ぶりなラス・カーズという味わいだ。
ラベルにも、ラス・カーズのシンボルであるライオンが座った門が描かれ、その中に小さなライオンが描かれている。
2016のラス・カーズセパージュは、カベルネ・ソーヴィニヨン75%、メルロ14%、カベルネ・フラン11%という割合だ。
それに対してセカンドのプティ・リオンは、カベルネ・ソーヴィニヨン54%、メルロ38%、カベルネ・フラン8%になっている。
一般的にはメルロの比率が高いと早く飲めると言われるが、それはこのセパージュにも表れている。
それに対して、別区画のブドウを使うクロ・デュ・マルキは、ラス・カーズのつくるもう一つのファーストラベルという位置付けだ。
そのため、今ではクロ・デュ・マルキにもセカンドラベルが存在する。
クロ・デュ・マルキの2016も素晴らしいワインなのだが、このプティ・リオンも2016は特にいい。
そのビッグヴィンテージのプティ・リオンを改めて自宅で開栓し、テイスティングしてみた。
【テイスティング】
プラムやカシスの果実味、ドライハーブ、黒ブドウの皮のタンニン、みずみずしいトマトやピーマン。
杉のような針葉樹、乾燥したタバコの葉、ブラックベリー、焼いたオーク。
スミレのようなフローラルさ、アーシーな湿った土、柑橘の皮の苦味、少しスモーキーなニュアンス。
親しみやすくメルロー比率高めの、まさに小ぶりなレオヴィル・ラス・カーズという印象。
食事と合わせて飲む事で真価を発揮するラス・カーズ同様、特に牛肉や羊肉の料理には素晴らしく合う。
税前6,000円弱で買ったが、その価格で味わえる小さなラス・カーズと考えたら、私のようなファンにはたまらないワインだ。
ちなみに、ウイスキーファンにもお馴染みの英王室御用達ワイン商、ベリー・ブラザーズ・ラッド(BBR)が、ラス・カーズに委託してベリーズのサン・ジュリアンを詰めてもらっている。
それもよく飲むいいワインなのだが、プティ・リオンともクロ・デュ・マルキとも味わいがかなり違う。
また、価格的にも私が買ったブティ・リオンの額と大差がない。
そう考えると、このワインは相当コストパフォーマンスに優れていると思う。
来年や再来年になると高くなっていそうなので、少し高いとはいえまだ残っている市場在庫を買うか悩ましい。
ラベルも良いし、サン・ジュリアンの王と呼ばれるラス・カーズらしさを感じる事ができる。
素晴らしい、セカンドラベルのお手本ともいえるワインだ。
【Verygood!!!】