日本もそうだが、スコットランドでも新しいマイクロ・ディスティラリーの参入がめざましい。
スコットランドは長らく大手以外は参入が難しい時期が続いた。
それは生産するための蒸溜設備の最低限度が定められていたためだが、地域の雇用創出などを目的に規制が緩和された。
それが今の新興蒸溜所の建設ラッシュに繋がっているらしい。
そんな新しいマイクロ蒸溜所を多く訪れた人の話を聞くと、たくさんある新興蒸溜所の中でも特に将来に期待がもてそうな所が何ヵ所かはあるという。
その中の一つが、中堅ボトラーズであるアデルフィが西ハイランドにつくった、アードナムルッカン蒸溜所だ。
2014年に建てられたこの蒸溜所は、マル島の東にあたる西ハイランドのアードナムルッカン半島にある。
グラスゴーからは車で4時間弱かかる僻地だというが、その土地のポテンシャルに目を付けこの場所でのウイスキー作りを決めたという。
物流や観光の面を考えたら、もっと違う場所を選んでいるだろうから、その時点で作ることに主眼をおいていることが窺える。
個人的にも注目している新興蒸溜所で、リリースされた初期のもののいくつかはBarで飲んだ。
だが、それ以降にリリースされたものはあまり飲む機会をもっていなかった。
しかし、樽を共同購入している2016年ヴィンテージの原酒が使われているというのもあり、最近日本に輸入された新しいものを買ってみた。
それがこのAD10.22:04で、私にとって初めて購入したアードナムルッカンのボトルとなった。
AD10.22:04というのは2022年10月のバッチを意味しているらしく、46.8%に加水されてリリースされている。
ラベルにはこのAD10.22:04というコードも含め、ウイスキーの情報の記載がほぼない。
だが、裏ラベルのQRコードを読み込めば詳細な情報が分かるようになっている。
そこには相当マニアックな情報が記載されていて、使われている麦の種類がブルームホールという農場のコンチェルトであること、マッシング(糖化)のオペレーターの名前や温度、平均的な発酵の時間などが分かるようになっている。
また、ヴィンテージやピーテッドかそうでないかを含んだ、樽の種類やカスクNo.も記載されている。
ブルックラディでも似たような情報をみた記憶はあるが、ここまでトレーサビリティを追求している蒸溜所も珍しいのではないか。
欲をいえば輸入元の案内には記載があった、熟成に使用した樽の比率(65%がバーボン、35%がシェリー樽)や、ピーテッドとアンピーテッドが半分ずつという比率の記載があると、ウイスキーの味わいの予想が立てやすいためありがたい。
↓↓↓このバッチの詳細情報はこちらから
https://ardnamurchan-distillery.co.uk/newBottles-detail/276135
このウイスキーを開栓し、数回に渡って飲んだため、そのテイスティングノートを記載する。
【テイスティング】
茹でたジャガイモの香り、オイリーなテクスチャー、ワックスをかけたオレンジの皮、少しだけスピリティさを感じる。
新しいスプルースの白木っぽいウッディネス、ヌルっとした昆布水、海洋系のヨードを伴うピートの苦味や煙。
バニラやカスタードクリーム、粒の荒い黒胡椒の様なスパイス、かすかに洋梨の果実味。
ライムやオレンジの柑橘、草やミントのニュアンス、麦の甘味、樹脂っぽさ。
余韻は短めで、アルコールのアタックに加え龍角散やミルクのテクスチャーも伴う。
厚みがあまりなく、少し単調な若めのウイスキーで、今の時点でスタンダードの10年熟成ものが秀逸な蒸溜所とはまだまだ差がある印象。
約5~7年の熟成だろうし、単純に価格と味のバランスを考えたら、タリスカーやラフロイグ、アードベッグなどの10年の方が安いのにうまい。
しかし、それらの蒸溜所は約200年の歴史をもっているのだ。
創業10年に満たない蒸溜所の加水のスタンダードラインのウイスキーと考えると、確かな作りと豊かな将来性を強く感じる。
個人的には、この蒸溜所が目指しているのは立地通り、タリスカーとスプリングバンクの中間ぐらいの味わいではないかと思える。
ライジングスターであるアードナムルッカンの今が分かる味わいで、マニア向けではあるが意外に杯が進むウイスキー。
この蒸溜所のバックボーンを考えると、加水してスタンダードとして出てくる樽、シングルカスクで飲むべき樽ときちんと選別されて出てくるだろう。
そんなシングルカスクの中には、飛び抜けたものが出てきても何らおかしくないポテンシャルがあるだろう。
そう思えるアードナムルッカンのウイスキーだ。