フランスにはAOCと呼ばれる原産地呼称があり、ワインも定められた作り方に沿って作られた物のみがそれを表記できる。

例えば、ブルゴーニュのジュヴレ・シャンベルタンでは、ピノ・ノワールを使った赤ワインしか認められていない。

したがって仮にグラン・クリュ(特級畑)にシャルドネを植え、それでワインを作っても、AOC的には広域名称のブルゴーニュ・シャルドネとしか表記できない。


しかし、AOCの基準に合わないだけで品質が高い、ある意味お買い得といえるワインが生まれる事がある。

このロゼ・スパークリングもそんなワインの一つではないだろうか。


使われているブドウはグラン・クリュのリュショット・シャンベルタンや、ジュヴレ・シャンベルタンのヴィラージュ(村名格)のピノ・ノワールらしい。

しかし、前述したようにジュヴレ・シャンベルタンは赤ワインのAOCしか認められないため、スパークリングではジュヴレ・シャンベルタンを名乗れない。


また、ブルゴーニュの発泡性ワインのAOCには、クレマン・ド・ブルゴーニュというのがあるが、その格の畑以外のブドウを使うからそれもまた名乗れない。

結果として、AOCから外れた『ヴァン・ド・ペイ』という、いわゆる地酒としてリリースされているのだ。


しかし、作り方としてはスティルワインを瓶内二次発酵させてつくるクレマン・ド・ブルゴーニュと全く同じで、しかも使われているブドウはグラン・クリュを含んだ上質なピノ・ノワールだ。

ワインの味を決めるファクターはブドウが大半を占めるため、いいワインである確率が高いのは自明だろう。


普通ならば、同じブドウで赤ワインをつくれば2~3倍の値段では売れる。

それでもそうしないのは新たなワイン造りへのチャレンジか、AOCに関係なく単純においしいワインをつくりたいという事だ。

そういう酔狂な作り手は結構いるが、このワインの作り手であるトラペ・ロシュランデもそのうちの一つだ。

https://www.domaine-trapetrochelandet.com/en/home 



少なくとも1875年まで歴史が確認できる家族経営の農家で、1986年にはフランソワ・トラペが自らの名前をつけたドメーヌを興し元詰めを始めたらしい。

2015年に息子である今の当主に代替わりし、母方の姓を加えたトラペ・ロシュランデにドメーヌ名を変更した。

先代のときはホームページも持たず、展示会への出展も評価誌へのサンプル提供もせず、国内の個人顧客のみに販売するドメーヌだったそうだ。

それを聞くと昔気質の生産者なのだろうと思うし、その血筋がこういうワインを産み出したのだろう。


また、トラペ・ロシュランデは同じように発泡性の赤ワインも作っている。

なんでもそれは、15世紀頃までジュヴレ・シャンベルタンで飲まれていたというワインの再現を目指したという。

その赤泡も飲んだが、ワインとしての完成度はこのロゼの方が遥かに上だと思う。

しかし、今はHP上にはこのロゼは掲載されていないので、トライアルで作った限定品だったのか単純に更新されていないのか。

もし作っていないとしたら、気に入っているだけにとても残念だ。


このワインは友人のインポーターから勧められて家で3本飲んだが、最後の4本目を開けて飲んでみたので記録を残す。


味わいはチャーミングな木苺やチェリー、フランボワーズ、完熟蜜リンゴ。

香り立ちは華やかで赤い花のフローラルさがあり、瓶内二次発酵だけに泡は繊細で力強く立ち上る。

しっかりしたミネラル感が特徴で、酸が強めではあるがふくよかさや優しい甘さもある。

アフターは意外にドライで、銀のスプーンを舌に当てたような鉄分に少しジュヴレ・シャンベルタンを感じる。

冷やして飲んだが温度が上がってもおいしく、泡が抜けてきた状態でもおいしそう。

巾広く食事に合わせやすい、フードフレンドリーなロゼ・スパークリング。


クレマンの中に近い味わいの物がないわけではないが、ジュヴレ・シャンベルタンの個性も探せる面白いワイン。
価格としては相当安かったので、とてもコストパフォーマンスよくかつどんなシチュエーションでも楽しめた。
AOCワインでなくても、安くておいしいものはたくさんあるんだという事を示してくれる。

そんな少し酔狂な作り手の、一風変わったジュヴレ・シャンベルタンのロゼ・スパークリングだ。


【Verygood!!!】