ウイスキーは瓶の中で長い年月で変化することはあるが、化学的には熟成とは異なるといわれる。

それに対しワインは瓶内でも化学的に熟成するため、同じロットを同じ環境内に置いても味わいが異なる場合が多い。

その期間が10年以上というならまだわかるが、体感的に2年とかであってもボトルによる個体嵳はそれなりにある。

例えるなら、同じ日に蒸溜されたウイスキーを同じところから調達した樽に入れ、同じ期間熟成させたのに、隣同士で味がちがうのと同じだ。


つまり、1本飲んだくらいではそのワインの真価に迫ることはできず、私は以前はその再現性の低さからワインを遠ざけていた。

それに比べるとウイスキーは同じロットで瓶詰め後数年なら、個体嵳はないに等しいといっていい。

ベンチマークとして考える場合、信頼性が高いと言えるだろう。


しかし一度大当たりを引くと、ワインの再現性のなさと個体による違いが愛おしくなってくる。

ウイスキーloverよりワインloverの方がお酒に対して寛容なイメージがあるのは、その差に起因しているのかもしれない。

そういう意味ではワインの方が人に近く、そこも含めて愛しているゆえに、ワインloverの多くは早急にはそのワインに対して見切りをつけないのだろう。


かつて、某国民的ラグビードラマで主人公に恩師が諭す『相手を信じ、待ち、許す』という言葉があったが、ワインloverのワインへの目線はそれに近いものがあるのかもしれない。


それゆえ、ワインを買うときは少なくとも3本くらいは買うことが多い。

最初にじっくりと飲んでみて飲み頃をみきわめ、飲み頃だと自分が思う時期にもう一本開けてみる。

仮にイメージと違っても三度目の正直にかけ、それでも外れたら自分の嗜好とは違ったんだ、もしくはこのヴィンテージは今一つだったのかもしれないと思い至る。

逆に、もし飲み頃の2本目が当たろうものなら、その生産者の熱狂的な応援者となる。

そういうお酒の愛し方や楽しみ方は、個人的にはとても素敵だと思う。


そして、私にとって都合4本目のこのワインはそんなワインの楽しみ方を体現するワインとなった。

それがこのドメーヌ・レシュノーのジュヴレ・シャンベルタン、2013ヴィンテージだ。


ドメーヌ・レシュノーはフィリップとヴァンサンのレシュノー兄弟が、父から受け継いだ畑を元に1986年に興した比較的新しいドメーヌだ。

しかしロバート・パーカーの生産者に対しての最高評価である5つ星を与えられ、2002年のクロ・ド・ラ・ロッシュには満点の100点がついている。

にも関わらず他のワインは良心的な値段で、バックヴィンテージを購入したこの2013は、当時ニューリリースの中堅クラスのドメーヌのブルゴーニュ・ルージュよりも安かった。

折しもブルゴーニュの記録的な不作のニュースを耳にし、まとめて買っておこうかと購入したものだ。


また同時期にレシュノーの村名モレ・サン・ドニ、ニュイ・サン・ジョルジュ、ニュイ・サン・ジョルジュ1級プリュリエなども買った。

複数ヴィンテージを買ったモレ・サン・ドニなどは特に、レシュノーのスタイルとマッチしていてどれも安定感がある。

また、ドメーヌが本拠地を置くニュイ・サン・ジョルジュのワインも同様で、唯一ジュヴレ・シャンベルタンはピンと来ていなかった。


これだけが2013ヴィンテージだった、というのもあるのかもしれない。

個人的には2010年代の中では、2013はブルゴーニュの赤についてはオフヴィンテージだと思う。

また、レシュノーのスタイルと、普段よく飲むジュヴレ・シャンベルタンに感じるらしさは、マッチしないのかとも思う。


いずれにしても、今まで約1年半かけて飲んだ3本は、一進一退を繰り返し手放しで価格的にも味わい的にも素晴らしい、とはならなかった。

そして、3本目から半年の時間を空けて飲んだ4本目がこれだ。

ついに待っていたものが開花していて、きれいな熟成に差し掛かったオフヴィンテージらしさが付加されている。

1本じっくり飲んだため、そのテイスティングを記載する。


【テイスティング】

酸味のあるチェリー、ラズベリーなどの赤い果実。ヴィンテージ由来かしっかりした酸を感じる。

ちょっと梅干のような熟成した香味、わずかに干し肉のような獣臭、土の香り、ジュヴレ・シャンベルタンらしい骨格は熟成により砕けて、少し古いインクのような香りに溶け込む。

みずみずしい巨峰を皮ごとかんだような果肉とタンニン、ナフタレン、黒胡椒やクローブのようなスパイス。

繊細だがクラシカルなブルゴーニュらしさが存在する余韻、美しい熟成感もある。

思っていた味わいの上をいく素晴らしいレシュノー解釈のジュヴレ・シャンベルタン。


これを勧めてくれたインポーターのソムリエは、『レシュノーは名が売れたワイン以外は日本ではそれほど高く評価されない。しかし繊細でそれがわかる人にはお勧め。かつ熟成するとよりその良さがわかる』というような事をおっしゃっていたが、まさに腹落ちする感じ。

大袈裟かもしれないが、ああ、開花する日を信じ待ってこの日がついに来たか、と思う。
ちなみに最初に3本、そして3本追加したためまだ2本手元にある。
オフヴィンテージらしい熟成の足の早さはあるかもしれないが、後は年単位で待ちこのヴィンテージがどうなっていくかを見届けていこうと思う。
例えるならそれは人の成長を目にする喜びに似ている。

ケース単位でワインを買うと、このような醍醐味が味わえる。
高額化しているブルゴーニュは1本飲むのがやっと、という価格帯のものが増えてきた。
しかし、ボルドーでもいいので熟成による変化を楽しむ、というケース単位での飲み方は、いろいろなものへの理解が深まる。
そんな事を思った、レシュノーのジュヴレ・シャンベルタンだ。

【Verygood!!】