先日、barでいろいろなウイスキーを飲んだ。

印象的だったのは96年ヴィンテージのラフロイグ、そして丸亀の名店の周年ボトル2000ヴィンテージのアランだった。

両方とも素晴らしい20世紀のウイスキーで、個人的にはウイスキーはある程度熟成してこそ個性とうまさが出ると思う。


とはいえ、ヴィンテージ2007でも15年位は熟成している事になり、いまや90年代ヴィンテージもずいぶん遠くなった印象だ。

1990年は今から33年前ということになるし、2000年だとしても23年も前になる。

ウイスキーというのは、つくづくゆったりとした時間の流れの中に置かれた飲み物だと思う。


例えばこのスプリングバンクは、1990年代後半おそらく1997年頃の蒸溜で、10年間熟成されている。

ボトリング年もヴィンテージも記載されていないため、この手のボトルはオークションでは安値で落とせる事が多い。

ヒントになるのは、スペイサイド・クーパレッジの60周年記念でボトリングされているという点だろう。

クーパレッジとは樽を製造する会社の事で、HPを見るとスペイサイド・クーパレッジは1947年に設立されている。

その60周年を記念しているということは、おそらく2007年にボトリングされていて、逆算すると1997年頃の蒸溜と思われる。

https://www.speysidecooperage.co.uk/about.php 



1997年といえば和暦に置き換えると平成9年、山一証券が破綻し、サッカー日本代表がジョホールバルで行われたフランスW杯の出場をかけたプレーオフで勝利し、本大会への初出場を決めた年。

当時の首相は橋本龍太郎で、邦画の年間一位はもののけ姫、一番売れた曲は安室奈美恵のCan you celebrate? だという。

こう書くとずいぶんと前な印象だが、なぜかウイスキーだと1997年蒸溜は最近だという気がするのが不思議だ。


このボトルがリリースされたであろう2007年頃には、スプリングバンクは通常のスタンダード品は、既に今と同じダンピー瓶に切り替わっていたようだ。

しかし、プライベートボトル系は変わらずトール瓶でラベルもレトロ感があり、個人的にはこの仕様の方が好きだ。


このボトルは前述したようにヴィンテージもボトリングも記載がない10年熟成で、スペイサイドクーパレッジの60周年を記念してボトリングされている。

カスクNo.は815でおそらくシングルカスク、アルコール度数は46%のためおそらく加水されているのだろう。

アウトターンは371本で、このボトルのボトルNo.は一番最後の371番だ。

クーパレッジのプライベートボトルらしく、ユニークなトースティングプロセスを用いられた樽という記載があるが、具体的なことは書かれていない。


海外のオークションで落札したもので、裏には£47.50と書かれた値札のシールがついているが、私が落札したのは今から約5年前で£90だったようだ。

フィーも含めて、当時のレートで約14,500円くらいという事になる。

当時、スプリングバンクのシングルカスクの限定品としては悪くない値段だと思って買ったが、いま検索するとあるショップでは約7万円で売られている。

それはさすがに。。。という価格だが、今のスプリングバンク人気を象徴している。

最近家でスプリングバンクを開栓していない気がして、飲んだことがないこのボトルを選び、開栓してみた。

テイスティングノートを以下に記載する。



【テイスティング】

加水のためか香りだちが華やかで、潮っ気やスモーキーさを感じる。

口に含むと、麦の甘味、麦感はライ麦のような少し酸がありスパイシーなニュアンス。

オレンジっぽい柑橘、その皮のオイリーさ、ローズマリーのようなハーブのアロマ、ドライジンジャーやナツメグのスパイス感。

柔らかいピートスモーク、舌に重なる潮っ気、蜜蝋、少しバニラ。

余韻にもオレンジ系のニュアンスやグリーン感があり、酸とスパイシーさが印象的。


当時のスタンダードの10年とも今の10年とも違うシングルカスクらしいニュアンスがあり、おそらくアメリカンオークだろうが、シンプルなバーボンカスクとは違う印象の味わい。

フィノかラムのトリーテッドのような印象で、まだ前の酒の影響がある段階でトーストしたようなニュアンスがあるが、ウッディネスは強くない。


当時、ウッド・エクスプレッションというシリーズで様々なトライアルを行っていたスプリングバンクだが、これもその一連のトライアルの成果の一つなのだろうか。

今ならフレッシュ樽と表記されていそうで、スプリングバンクらしい麦の厚みに加えて、スパイシーでオレンジのニュアンスがある面白いボトル。

ボトリングから15年は経っていると思われるがまだまだフレッシュで、開栓後はグリーン系のニュアンスが強まりそう。


比較のために今家で開いている同時期の蒸溜と思われるボトルも並べて飲んでみた。

しかし、共通点はそれほどなく、強いていうなら今のスプリングバンクのような綺麗さがないという点くらいだろうか。

それですら時間経過でどうなるかわからないため、将来の姿は断定できない。

 

スプリングバンクはヴィンテージという括りでは評価が難しいという印象があるが、100%ハンドクラフトゆえのバラツキがあるためだろう。

しかし、それがこの蒸溜所の面白いところで、ファンにはたまらないところでもある。


個人的には2万円を越えるような値段で買う味のウイスキーではないと思うが、樽の個性が味わえるシングルカスクらしいスプリングバンクだ。


【Good/Verygood!!】