先日、ウイスキーのブラインド・テイスティング・イベントに久しぶりに参加した。

KING OF KINGSと銘打たれたそのイベントは、有名店のバーテンダー、マスター・オブ・ウイスキーや専門誌のテイスター、有名ブロガーなど錚々たるメンバーがパネラーとして参加している。

生粋のブラインド・マニアによる、ブラインド・マニアのためのテイスティング会だ。

完全ノーヒントでそのウイスキーを評価し、それがどのウイスキーだと思うかを考察するのだが、今回の5つのサンプルのうち1つだけ劇的にはずしたものがあった。


開栓後1週間ということでアタックの強さはあれど、ソーテルヌのような残糖のある桃感、しっかりと効いた樽感やスパイス、ほんのりとピート感もあった。

今まで飲んだウイスキーの中ではあるヴィンテージのある蒸溜所のイメージが頭から離れなかった。

そこから派生し、候補の蒸溜所を二つに絞ったが答えは全く異なるものだった。


正解は、コッツウォルズという2014年創業のイングランドの蒸溜所のゴールデン・ウォルドというボトルだった。

私が回答した答えは、独特の残糖感や桃、スパイシーさで長熟バーボンカスク熟成のピアレス系の1973グレンマレイ、それでなければ似た傾向があり、アタックの強さがあるため1990年代半ば以降のボトラーズのグレンバーギというものだった。

ベンリアックやトマーティンとは傾向が少し違うが、『桃っぽさ』のあるウイスキーという印象を受けたからだ。

正解を聞いたときに衝撃を受けたが、後でインターネットでこの蒸溜所の素性を知って納得がいった。


コッツウォルズは地元イングランド産の大麦を使用し、100%フロアモルティングでウイスキーを仕込むらしい。

本場スコットランドのウイスキーさえ凌駕するような、しっかりした哲学を持った蒸溜所だった。


しかも、故ジム・スワン氏が最後にコンサルタントを手掛けた蒸溜所で、ボウモアでマネージャーを務めたハリー・コックバーンをメンターに迎えたという。

ジム・スワンといえばSTR(シェービング、トースティング、リチャーリング)の赤ワイン樽が代名詞で、それはコッツウォルズのフルーティーさと無関係ではないだろう。

調べてみると価格も相当安いものが多く、盟主ともいえるスコットランドを脅かし、いずれ取って代わる可能性すら秘めた、正統なる新世界のウイスキーといえるのではないか。


出題されたゴールデン・ウォルドは価格も15,000円強とそれなりにするため、それだけが特別なキュヴェかを確かめたくて、もう少し価格が安いものを購入した。

そのうちの1本がこのファウンダーズ・チョイスで、バッチはいくつか出ているようで、バッチごとに微妙にアルコール度数は異なる。


私が買ったのはアルコール度数が59.1%のもので、ウイスキーベースによるとボトリングは2021年、樽はSTRのアメリカンオークの赤ワイン樽で、アウトターンは2,500本だ。

コッツウォルズは2014年蒸溜開始ということなので、最長でも熟成期間は7年という事になる。

また、私が買った値段は税込7,000円強と買い求め易い価格帯だった。

そのボトルが届いたので、早速開栓しテイスティングしてみた。


【テイスティング】

残糖感のあるシロップがけの白桃、チェルシーのバタースコッチ味、しっかりとモルティ。

少しケミカル感のあるアプリコット様のフルーツ、スモーキーさ、白い花のフローラル、白い粉をふいたドライフィグ。

ミルクチョコレート、しっかりとしたオーク樽のスパイス、アルダーの新しいギター、ニスやセメダイン、苦味のあるスパイシーな余韻。


複雑みはなくストレートだがそれゆえ酒質のよさが分かり、新しいウイスキーのアタックの強さはあるが未熟さはない。

加水するとエレメントは変わらず、芯の強さは残しながらマイルドになる印象。

フルーティーなスペイサイドモルトのような王道感のあるウイスキー。


比較するとゴールデン・ウォルドの方がより上質だが、この価格帯でも蒸溜所の特徴がよくわかるし、まだ二つしか飲んでいないがクオリティの平均値は相当高い。

新興クラフトの枕詞に付きがちな『熟成が短いわりには』というのが不要だし、歴史を考えたら出来やコストパフォーマンスの高さは異常なウイスキーだと思う。


ワインにおいては、ブルゴーニュやカリフォルニアのピノ・ノワールの価格が高くなると、ハイクオリティで価格が安いニュージーランドやオーストラリア、チリのピノ・ノワールなどを選択しようか、ということが普通にできる。

今までウイスキーでそれはなかったが、スコッチやジャパニーズが高いから、値段も安いしイングリッシュのコッツウォルズを飲もう、という位置付けのウイスキーがようやく出てきた印象。

カバランのシェリーカスクを飲んだ時以来の衝撃で、しかも価格帯やスコッチとの相対比較は当時のカバランよりはるかに安い。


ローカルバーレイ、100%フロアモルティングに由来する良さなのかは現時点ではわかりにくいが、STR樽のよさは間違いなく出ている。

このまま順調にいくと、この蒸溜所の未来は末恐ろしいと思う。

どう成長していくのか今後も追って行きたいし、100%フロアモルティングによくある、時間をおいてこそ真価を発揮するという要素が出てくるのかもみてみたい。


イングランドはワインでも目利きが素晴らしく、世界のワインマーケットの中心地がロンドンであるという事に異議を唱える人は少ないだろう。

また、酒造りにおいても個人的にはいずれシャンパーニュと双璧を成すだろう、と思っているイングリッシュ・スパークリングを産み出している。

そして、なによりスコッチウイスキーを長く愛飲してきた国なのだ。

コッツウォルズはイングランドの酒造りにゆくゆくはシングルモルトウイスキーの銘醸地という肩書きが名を連ねる、そう予感させるウイスキーだと思う。


今年のワールド・ウイスキー・アワードでは、イスラエルのM&H蒸溜所のエレメンツ シェリーカスクがワールド・ウイスキー・アワードを受賞したことが話題になった。

ウイスキーにも新しい波が確実に押し寄せているのだろう、コッツウォルズを飲んでそれを改めて認識した。

評価的にはコストパフォーマンスや衝撃度を加味するともう一つ上のランクでもいいかもしれないし、ワイン的な点数でいくと91~92+という感じだろうか。

久しぶりに新しい蒸溜所のウイスキーで興奮を味わえた、素晴らしいイングリッシュウイスキーだ。


【Verygood!!!】